やるにしても

益体もないメモ。以前書いた某エントリの続きのような話。

 

某所の某webinarで言及されていて*1、やや驚いたのが、訴訟記録の「オープンデータ」化*2*3の中で、当事者の仮名化については、企業に対して適用しないという動きがあるようだ。

 

その点が議論されていたのは民事判決情報データベース化検討会の第10回会議の模様。本エントリupの時点では議事録は未公開だが、資料を見ると次のような記載が見受けられる(論点2)。

 

〇仮名化すべき情報の検討に当たっては、本件スキームの目的の公益性や民事判決情報は公開のプロセスを経て生成されるものであることなどを踏まえ、考慮すべき権利利益を明確にした上、本件スキームの下で当該権利利益を保護するために当該情報を仮名化すべきかどうか検討する必要がある。法人の名称等については、正当に保護すべき権利利益として、プライバシーを観念することはできないものの、名誉や信用は観念できる。もっとも、名誉や信用については、プライバシーとは異なり、収録された民事判決情報が利用者に提供されただけで直ちに侵害されることは想定し難く、その後の利用のされ方によってこれらの権利利益が侵害されることがあり得るにすぎないようにも思われる。また、こうした名誉や信用は、プライバシーとは異なり、不法行為責任の追及等による一定の回復が見込まれることなどから、仮名処理まで実施する必要はないように考えられる。

〇本検討会におけるこれまでの議論では、法人の名称等については仮名処理をする必要がないという意見が大勢を占め、民事判決情報を公開することによって、いわゆるレピュテーションリスクが生じたり、法人に対する様々なアクセスが増えたりすることが考えられるとしても、その対応コストは、特に大企業にとっては、公益性の向上に伴う必要なコストとして捉えられるのでないかとの意見があった。

 

そうなのかなというのが第1印象。特に昨今の「レピュテーションリスク」(評判への悪影響ということか)の大きさや、公開した情報がずっと残ること(「魚拓」を取られることも考えると余計に)を考えると、そんな簡単に割り切っていいのかというのは個人的には疑義を覚えるところ。公益性という、わかるようでわからない言葉との引き換えに犠牲にしていいようなものかなというのも感じる。

 

それと、企業側の話だけではなく*4、企業を訴える側、特に個人の相手方との関係でも、個人それ自体は仮名化されるのかもしれないが、個人が労働者の場合で、紛争の中身や攻撃防御の仕方次第では当事者名仮名でも推測される可能性はあると思うので、それで大丈夫なのかという気もする*5

 

気になる話なので、とりあえず可能な範囲で、状況は見守りたいと思う。

*1:webinar自体は内容以前に回線トラブルで内容が聞き取れず、時間を無駄にした感が強い。これなら録画を見た方がよかった。

*2:なんでもかんでも片仮名にするのは知性の欠如を感じずにはおられない。漢字にする過程で対象の本質を理解し表現しようとする努力を放棄しているようにも感じられるので。

*3:データをいじくりまわしてお鳥目を得ている手合いの為に裁判をやるわけではないし、公開すれば裁判の公正に資するというお題目についても、そうなのかというのは疑義を覚える。まあ、多少文脈は異なるかもしれないが、昨今の検察の取調べの公開の件が一つの示唆を与えてくれるかもしれない。

*4:B2BでもB2Cでも必要ならば、特段の制約がない限り仲裁合意を撒いて仲裁にしてしまうという対応はあり得るのではないか。

*5:この点で、労働契約についても紛争解決手段を仲裁にすべきかと呟いたところ、浜弁先生から、仲裁法附則4条との関係についてご指摘をいただいた。また労働契約に関する紛争を仲裁で処理することが可能かどうかについてもコメント(こちらこちら)をいただいた。ご指摘に心よりお礼申し上げる次第。