知財トラブルの出口戦略と予防法務 ―紛争解決へのアプローチとリスク管理 /阿部・井窪・片山法律事務所 (著), 服部 誠 (著), 中村 閑 (著), 大西 ひとみ (著)

一通り目を通したので感想をメモ。知財紛争処理のコンパクトな入門書(本文が300頁余)としては、良い本ではないかと感じた。

本書がどういう本かについては、「はしがき」の次の記載がわかりやすい。

本書は、知的財産紛争(主として日本における日本企業同士の知的財産紛争)に関して、権利者・被疑侵害者の双方の立場から、事前、事後に、どのような対策を講じておくべきかを、重要な裁判例や学説を踏まえつつ、権利別にわかりやすく解説し、知的財産に関する企業の事前の準備(=予防法務)と、事後のリスクの極小化(=出口戦略)の方策を示すことを目的として、執筆しました。

 第1編の基礎編で、基礎的なところを、政府発行のテキストにおける記載を適宜使いつつ、手短におさらいして、第2編では権利者側の立場から予防法務と出口戦略を解説、第3編では被疑侵害者側から同様に解説し、最後の第4編でまとめとして、予防法務・出口戦略について、まとめを「鉄則」として表現している。

 

カバーされている範囲がそれなりに広いので、要所で写真とか図表、判示の引用を効果的に使うことで理解を助けてくれているものの、全部で300頁余に収めるためには、個々の記述は簡潔にならざるを得ない。それゆえに読み手によっては、記載がわかりやすくないと感じるかもしれない。また、対応策についての記載はやや抽象的にも見えるかもしれない(何か起きたときの対応策の方向性を探ることは可能だろうけど)。

 

上記のようなことを感じたものの、何らかの形で知財紛争処理にかかわることになる人が、その全体像を手短に概観するという意味で読むには良い本だと思う。ただ、それぞれの分野について、もう一歩先に行くための道案内としての読書案内というか、参考文献の案内がないことが惜しまれる気がした。