Henry Schein v. Archver & White: A Lesson in the Importance of Carefully Drafting an Arbitration Clause / Charles B. Rosenberg

英語の論文の類を長らく読んでないなと思ったので、そのあたりに詳しい*1@znkさんがメモされていた掲題の論文を読んでみたので感想などをメモ。10頁ちょっとなうえ、英文も読みやすかった。

digitalcommons.wcl.american.edu

 

仲裁条項の書きぶりに問題があって、本案前の論点についての争いだけで連邦最高裁まで上訴されて7年を費やしたという、ある意味で悪夢でしかないような事例を入り口にして、仲裁条項を構成する個別要素(ただし網羅的ではなく、準拠法、仲裁での言語、仲裁人の数等については、検討していない旨注記がある。)についての考慮点について論じたもの。以下、それぞれについて感想をメモしてみる*2

 

  • 仲裁の範囲については、題材となった事件では、暫定的な救済(日本でいうところの仮処分とか)を意図的に除いた仲裁条項であったところで、損害賠償請求(仲裁の対象となるだろう)と仮処分を裁判所に申し立てたことから問題になったということもあってか、包括文言を入れた広範なものにしておくことを勧めている。常設でない仲裁廷で暫定的な救済を求めるのは厳しいものがあるように思うので、やむを得ないのだろう。
  • 仲裁機関について、当事者の属する国ではない国の機関を推奨していて、その理由は理解できるのだが、中国企業相手の時に、そういうことをして、後で中国での執行段階で揉めないかは、気になるところ。結局仲裁判断が執行不能になっては元も子もないので、ここの判断は難しい気がする。
  • 仲裁地についても、仲裁地における法令に従って手続きをしないと、NY条約との関係で仲裁判断が無効とされる危険があるという指摘が印象深い…というかただ単にこちらが勉強不足でその点を知らなかっただけだが。仲裁地についても仲裁機関と同様に中立性確保が重要なのはわかりやすいところ。
  • 仲裁人。当事者が選定に関与できるのが仲裁の利点だが、要件のハードルを上げすぎると該当者なしになりかねない(該当者がいても利益相反とか逝去とかで就任してもらえない可能性があることには留意が必要)というのは納得できるところ。
  • 守秘。仲裁機関によっては、当該期間の仲裁規則上当事者に守秘義務を課していない(仲裁人などには課しているが)ところがあるというのは、これも不勉強で知らなかった。
  • 文書提出及びdiscovery。IBAルールとかはあるものの、証拠提出を一切強制しない等の選択肢もあり得るので、明確に規定することを推奨。個別事案における証拠偏在状況を想定したうえで、費用対効果もにらみつつ定めないとおかしなことになりそうなので、結構難しい気もしないでもない。

仲裁条項をどう考えるかについての手掛かりという意味で、個人的には興味深く読めた論文だった。そもそも契約交渉の中でこの種の条項についての議論にどこまで時間をかけるべきか、というと、紛争になる蓋然性が高くないことも考えると、そもそも時間を書けないという選択になりがちなうえ(仲裁機関推奨文言のままの方が、下手に考えるより無難かもしれないと思うと、余計にそうなるだろう)、時間を取るとしてもそれほど長い時間を取るのは困難だろうから、厳しい時間制約の中で、議論を手短に済ませる意味で、本稿で指摘されている問題点については理解しておくことは有益なのだろう、と感じた。

 

*1:という言い方が適切なのかどうか自信がないが…

*2:なお、僕自身は、仲裁条項を含む契約の審査などに関わったことはあっても、幸か不幸か仲裁自体に関与した経験はないので、その程度の人間の感想とご理解いただければ幸甚です。