わかりやすいマーケティング戦略 新版 / 沼上 幹 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。

 

先日目を通したこちらの本に引き続き、沼上先生の著作に目を通してみた。2008年の本なので、説明のために引かれている事例が古くなりすぎていて、今読むと、却ってわかりづらいところがあるかもしれないが*1、その点を別にすれば、良い本と感じた。ただし、前記の点から、他人様にお勧めするのは、躊躇うのだが。

 

本書は、「はしがき」によれば「市場に軸足を置いた経営戦略の入門書」とのことであり、日立製作所の社内研修テキストが基になっているとのこと*2。そういう経緯もあってか、解説は分かりやすく、特にこの分野の予備知識がなくても十分読み進めることができると思う。全体で300ページ弱とコンパクトなので通読も容易だった。全体の構成としては、個々の製品のマーケティング戦略から始まり、最後は事業ドメインや全社戦略について、ボトムアップな感じで解説が進められていて、こういう話の進め方は理解を容易にしてくれると感じた。

 

内容全般について、この分野の基本的なところをしっかり理解できるように、特に重要そうな部分については、世間一般でみるこの分野の入門書の記載よりは解説が詳しくなされているし、論の進め方も一歩一歩着実に、飛躍することなく議論を進めるという感じで、わかりやすく読みやすいと感じた。特に、PPMや5 Forcesについての説明は個人的にはすごくわかりやすかった。これらについては、今なお重要とされる考え方のようである。流行りの新しめの議論に惑わされずに、これらの「定番」化したような議論について、理解を深めるというのは、後々の活用もしやすくなることが期待できるから、良い発想なのではないかと感じた。

 

せっかくの良著なのだが、例示に引かれている事例や、「この先」の読書案内(入門書には必須と考える)が古くなりすぎていて、使いづらいものになっている。可能であれば、著者におかれては、これらの点を更新するとともに、最新の研究成果も踏まえる形で改訂をしていただけないかと思う。

*1:ドライ戦争とか懐かしい(当時は飲酒できる立場ではなかったが、記憶はしている。)。50代のこちらは覚えているものが多かったので、それほど大きな問題にはならなかったが、より若い年代の方にとっては、わかりづらいことが多いだろうと思う。

*2:著者クラスの方にテキストを依頼できるかの会社は、すごいと思わざるを得ない。実際にどれだけ活用されていたのかはさておくとしても。