国際私法 (有斐閣ストゥディア) / 多田 望 (著), 長田 真里 (著), 村上 愛 (著), 申 美穂 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。TL上で評判が高かったこともあって購入したのだが、この分野の「最初の一冊」としては、現状では最良の一冊なのではないかと感じた。

国際私法は、複数の法域をまたがって法の適用について議論をするという性質上、複雑な話になりがちで、かつ、普段目にする機会がそう多くもないと思われる法分野*1であり、僕にとっては、敷居が高いと感じる法分野の一つ。実際、個別法分野の入門書のシリーズというとこのストゥディア以外にもプレップシリーズ(労働法が有名か)があるが、この分野のプレップシリーズのものについては、僕はあっさりと挫折したのだった。しかしながら、この本は、まがりなりにも一冊目を通すことができた。

 

要因としては次のものが考えられるように感じた。

  • 単純な設例に基づいて丁寧に解説をしているので、理解し易い。
  • 条文の関係図や、問題の考え方のフローチャートが充実していて、頭の整理がしやすい(クイックレファレンスとしても有用ではないかと感じる。)。
  • 国際私法分野に限らず、初出の概念については、何らかの解説を付している。国際私法分野以外の用語については、ここまでする必要があるのかという疑問が湧くくらいに丁寧に。
  • 扱う話題を絞っている(と思われる)ことも相まって、適度な分量に収まっている*2

最後の点は、「最初の一冊」であるがゆえに使える手という気もするが、いずれにしても、これらの点によって、この分野の最初のとっかかりを比較的容易に作ることができるので、現時点では、この分野の「最初の一冊」としては最良の一冊という気がする。

 

褒めるだけだとつまらないので、いくつか希望を述べておくと次の点だろうか。

  • メインは法の適用に関する通則法の話で、普段馴染みのない条文なのだから、末尾に条文を一通り載せておいても良いのかもしれない(某プレップはそうしている)。
  • あくまでも「最初の一冊」なので、「その先へ」の読書案内は欲しかったところ。

 

 

*1:契約では準拠法を定めることで、そのあたりの議論を可能な限り回避するのが通常なので、企業法務でも目にする機会が多いとは限らない。先日、契約書に準拠法の記載がなく、かつ、準拠法で争いの生じそうなものに出くわしたが、過去にその種の判断を要する契約書に遭遇した記憶はなかった...。単に運が良かっただけかもしれないが。

*2:その一方で発展的な議論や最近の事象についてもさらっと触れられていたりするのだが。