令和2年改正 個人情報保護法の実務対応-Q&Aと事例/ 第二東京弁護士会 情報公開・個人情報保護委員会 (編集)

積読山で放置していたが、遅まきながら一通り目を通したので、感想をメモ。既に古くなっている部分もあるが、この分野に関する実務をするのであれば、手元において損のない一冊と感じた。

 

本書は、全体として、大きく3つの章からなっている。


第1章では、令和2年改正前の法の概要、令和2年改正の概要、及び、個人情報保護分野の重要事例について、簡潔に概説している。

 

第2章では、令和2年改正個人情報保護法について、Q&A形式で解説を加えている。改正法施行令・施行規則が出る前の時点の本なので*1、これらが出た時点で読むと、「古い」?という気もしないでもないが、案文は踏まえているのと、情報公開制度を利用して、本法に関する内閣法制局への説明資料の公開請求を行い、開示された資料を分析している点が、類書には見られない点だと思うし*2、現時点でも参照する価値があるものと考える。また、改正の過程で議論されつつも、諸般の事情で改正法に盛り込まれなかった事項の解説もあり、今後これらの点のうちのある程度は、立法化されることも考えられるので、令和2年改正時点での議論状況を見ておくことも有益ではないかと思う。

 

第3章では、類型ごとに重要事例を解説している。法令違反が問題になったものに限らず、うまく行っている事例についての紹介も含まれている。取り上げている事例の数は全部で20ほどで、数としては少なく見えるのかもしれないが、それぞれについての解説がしっかりなされているし、種々の関係文献・資料も末尾にリスト化されていて、個別の事案について、確認可能な形になっている。法令違反に限らず問題点の指摘があった事案については、どうすればよかったのか、を令和2年改正法下で検討しているのも有益と感じた。社内研修などで事例を紹介するのにも使い勝手が良いのではないかと思う。

*1:どうでもいいことかもしれないが、本書に限らず、法律の解説書については、冒頭に「基準日」の記載が必要だと思う。いつまでの情報に基づく記載なのかが明らかではないと、その後の事態の進展をどこまでどう踏まえるべきかがわかりやすくないから。大きな動きがある都度、速やかに改訂されればそのような必要はないかもしれないが、それも簡単な話ではないので。個人情報保護法のように動きの早い分野では特にそう思う。本書ではその点が必ずしも明瞭ではないのが、勿体ない気がした。→追記:大島先生からご指摘をいただいたが、p5に記載があった。ただ、できればこういう記載は「はしがき」の類のページに欲しかったと思う。

*2:開示を受けた資料の量が16000頁というから、二弁の先生方が共著の形で、複数人で分担して分析する形を取らないと処理しきれなかったのではないか。