不動産登記法入門 第3版 (日経文庫) / 山野目 章夫 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。この分野の令和3年改正後の入門書として最適なのではないかと思う。手元にあって損のない一冊ではないかと思う。

 

荒井先生の呟きを見て購入。こちらも山野目先生の「土地法制の改革」は積読のまま*1だが、新書版で分量が少ないことや、山野目先生の「読ませる」文体も相まって、一気に読んでしまった。

 

手続法の側面が強いこともあって、眠くなりかねないところを、やや長いコラム程度の短めの文章を積み重ねる形を取り、それぞれの文章の冒頭に設例*2や問題を設けることで、眠くならない工夫がなされている。また、文体も語り掛ける口調で、マスプロ授業で教壇の上から大勢の学生に説くというよりも、ゼミの教室で目の前の学生に語り掛けるような口調で、親しみやすい印象がある。

 

内容的には、制度の全体を平坦にまんべんなく概説するというものではなく*3、メリハリをつけて解説がなされていて、具体的に問題が生じうる状況に対して解説を付している感じだから、そういう意味でも読んでいて飽きさせないものとなっている。制度へのよくある誤解を質しつつ、制度の歴史への言及も交えて、R3年改正後の制度内容とその実体について解説がある。この辺りは学者の方の本領発揮というところなのだろう。

 

企業法務の分野では、不動産業でなくても、業務上の色々な場面で不動産には接する。工場や営業所といった事業拠点の設置廃止などもそうだし、債権保全・改修の場面などでも接点があるだろう。そういう時には登記の内容を確認することはあるし、その前提として、不動産登記についての知識が有用であることは間違いない。そういう意味で、企業法務に携わる立場にとっては、本書は、「最初の一冊」*4としても「最新の状況について知らせる一冊」としても、価値があるものとなると思うし、その意味で、手元にあって損のない一冊となるのではないかと思う。

*1:それ以前に荒井先生の本もだけど...(汗)

*2:冒頭に出てくる不倫と思われる二人の事例が何か所かに出て来て、それぞれが味わい深い内容になっているのも内容の理解を助けていると感じた。

*3:そういうものにも意味はあると思う。以前感想をエントリにした「登記法入門」はそういうイメージに近いといえるかもしれない

*4:実務で細かいところまで調べる必要があるとなると本書だけでは足らないのは言うまでもないが、それでも最初に制度を概観しておくことは有用であり、その意味でも本書が有用であることは確かだと思う。