知的財産ライセンス契約 産業技術(特許・ノウハウ) / 伊藤 晴國 (著)

BLJの最終号のブックガイドでも俎上に上がっていたこともあり、ざっと(日本語の部分を中心に*1)目を通したので感想をメモ。

 

もともとは知財ライセンス契約についての本を出す予定だったようだけど、先行して特許・ノウハウのライセンス契約についての本として公刊されたものの模様(「はしがき」の記載による)。

 

一つの特許・ノウハウ契約の雛型を素材として(巻末に全文がある)、総論的な解説の前段の後に、契約の要所について主な条項について解説したもの、というところだろうか*2。特許・ノウハウのライセンス契約というと、企業内にいるときは、あまり接点がなく(むしろ、技術系のバックグラウンドのある知財の担当者が見ていたので)初めて接する内容がそれなりにあったけど、解説はわかりやすく、分量もお手頃なので、個人的にはとっつきやすかった。

 

個別の条項の一般的な説明だけではなく、背景にある考え方まで解説があるので、この分野の実務書として読む分には最適なのではなかろうか。おそらく実際に契約をする際に取り交わす契約書の条項としては、もっと色々細かい内容を詰める必要があると思うが*3、まず最初に抑えるべき内容というとおそらく記載の内容のあたりになるのではないかと思う。それと、所謂一般条項についての解説も丁寧なので、英文契約書に慣れていない読者にとっても読みにくくはなっていないものと感じた。

 

本書で取り上げているのは、特許・ノウハウのライセンス契約だけど、その他の知財権(著作権、商標権、意匠権あたりか)のライセンス契約についても同様の立ち位置で解説してくれる本が出ることを期待する次第。

*1:主にJones Dayまたはその卒業生の先生方が関わっていて、英文のクオリティも一定以上ではあると思うが、「はしがき」に名前の出てくるのは日本人の方ばかりで、nativeの先生のチェックを経ている旨の記載がないのがやや気になった。

*2:個人的には定義条項の定義ぶりに気になるところがあったのだが、そのあたりについてはあまり解説がないのがちょっと残念な気がした。重要度という意味では落ちるだろうから、優先順位は低いとしても...。

*3:例えばこちらが気づいた範囲では、技術援助のところは、実際にやる場合にはもっと細かいこと(例えば技術支援で渡航する技術者の飛行機とかホテルのランクに至るまで...)を詰めていないと当事者にとって想定外の事態(予算超過とか)が容易に招来されるものと考える。