楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書) / 稲穂 健市 (著)

目を通したので感想をメモ。一般向けの知財の入門書として、秀逸ではないかと感じた。

 

個人的には、解説すべき内容に対して、適切と思われる身近なもの・ことを取り上げていて*1、適宜図や写真が入っていることも相まって、分かりやすかった。そのため、特許法の解説とかで、問題となる発明について「で、この技術の何が偉いの?」というような印象を持つことがあるが、そういう感じを抱くことがないまま読み終えられた。章ごとの末尾にまとめがついているのも、読者の記憶の定着を助けるのではないかと感じた。また、取り上げる対象に対して、必ず独自に調べたことを付加している*2のも、読み手の理解を深める上でも有用なのではないかと感じた。

 

また、知財の全体像を鳥瞰するに際しても、章立てとして、総論のあとに、まず、産業財産権に入らない著作権(付随して肖像権等にも言及)について解説していて、次いで、産業財産権について、営業標識に関する商標権(付随して不競法の話も少し)、それから、特許・実用新案・意匠権、についての解説が続き、最後に、知財の複合化・擬似知財権についての解説、となっている。一番身近でとっつきやすく、他と毛色の異なる著作権から入るというのは悪くないのだろう。

 

また、それぞれの解説で「模倣」をどこまで認めるのか、という視点での記載があるのも、それぞれの権利についての解説が並列にあるだけで雑然とした印象を与えるのを防ぐという意味でも有益と感じた。

 

もちろん、新書版で300頁余の分量なので、学術的な話や専門的な話はあまりふれられていないが*3、ざっと全体を鳥瞰するのには良いだろうし、ベテランの方々にとっても、研修とかで、説明の材料にも使いやすそうな事例がふんだんに載っているので*4、参考になるのではないかと感じた。

*1:時事ネタに寄り添いすぎているものー小保方騒動とか、東京五輪エンブレム問題とかーは、やや風化している感もあったが、それはやむを得ないのだろう。適宜の機会に差し替えがあるとよいのかもしれない。

*2:あちこちに問い合わせを出されていて、そのやり取りも興味深かった。

*3:参考文献の記載はあるものの、文字通り、著者が参考にした文献の一覧であって、この本を読んで、次のステップを探す読者への読書案内となるものがあった方が、知財を啓蒙するための入門書ということからすれば、良かったのではないかと感じた。

*4:もちろん著作権法上の疑義を生じさせない形で使うことになるのだろうが