ジュリスト 2025年 11 月号 [雑誌]

例によって目を通せた範囲について、呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 書評は「フリーランスとの取引と企業対応」。冒頭にこちらが気になっていた点の指摘があって、やはりそこは気になるよな、とニヤリとする。
  • 海外法律情報は韓国の戒厳法の改正。先般の騒動後の改正案が興味深い。日本でも参考になるところがあるのではないか。
  • 判例速報。
    会社法の閲覧謄写許可手続における取締役会議事録の存在の疎明は、モニタリングボードになると、個別取引の情報が上がらなくなるのかが気になった。
    労働判例速報の部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性は、今時だとそうなるよねと思いながら読む。
    独禁法事例速報のクレジットカードの件(詳細略)は、クレジットカードの仕組みがややこしいと感じた。普段あまり使わないし、仕組み意識して使うわけでもないから、余計にそう思うのかもしれないが。
    知財の医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許権の効力は、先発品側からすればこうなるべきなんだろうなと思いながら読む。
    租税の為替差損益による所得の把握において基準とすべき通貨は、国の制度だからそうなるのは止むなしなのかなという気がしたがどうなんだろう。
  • 連載/民事訴訟手続のデジタル化のこれからは、フェーズ3における運用の検討(3)—送達/書面提出期間経過後の説明義務等。辻褄の合わせ方とすればこうなるのかなと思いつつ、本人訴訟とかでは裁判所の都合が優先された感もあり、いいのかなという気が。
  • 新法の要点
    クロスボーダー収納代行と為替取引に関する規制は、興味もなければ縁もなさそうな分野の話だが、規制のあり様の検証と見直しが必要そうだけど大変そうな分野と感じた。
    早期事業再生法の概要は、適用範囲が限定的で、自動的に執行などが止まるわけではないところで、どの程度「使える」制度になるのかがよくわからない気がした。この制度の申し立てを契約上の期限の利益喪失事由にしたらどういうことになるのかも気になった。
  • 第217回国会の概観は、こういう法律が成立したのか、と思いつつ読む。知らない法律の方が圧倒的に多い。
  • 連載/地方創生に向けた官民連携の法実務の再生可能エネルギーと地方の共存は、PJの最後まで見据えた話であるべきなのではないかとも感じたが紙幅の問題もあるので止むを得ないのだろう。
  • 判例詳解の職業の健全性と差別は、論理は明快に見えるけど、やや言葉が強すぎるかなとも感じた。
  • 連載/広報と法務の危機管理広報(1)
    —総論は、理論的な分析に基づく対応のガイドラインが秀逸。報道された場合のヘッドラインから逆算して初動から動く必要性の指摘もなる程と思う。この連載の書籍化を希望する。
  • 特集はAI利活用の方向性。短いイントロの文章のあとは生貝先生の状況の概観と各文章の読みどころの紹介。既に話について行けるか不安を感じる。
    最初の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)の概要は、法律の概要紹介。AIを人工知能と表現するのがそもそも適切なのか疑問。日本が国際的な議論を主導した、みたいな記載があったけど、そうなの?と素朴に疑問。利活用が遅れている国にそういうことができるのかがよくわからない。
    第二期トランプ政権における米国のAI政策の動向は、諸々予断を許さない情勢というのを改めて感じる。
    EUのAI法の実務対応と今後の展望は、一定の予備知識が前提とされているようで、それを欠くこちらはついていきにくい感じがした。「EUのAI法を過度に崇めるべきでもないだろう。」との指摘が印象的だった。EUがGPDRの二匹目のドジョウを狙う感もあるところで、この分野のEUとUSの覇権争いに中国がどう絡むのかという辺りも気になった。
    金融分野におけるAI利活用は、金融庁の中にいる先生が書かれたもの。どこまで理解できたか分からないが、かの役所が前のめりにも見えて大丈夫かという感じもしないでもない(技術進展が早い分野で役所が前のめりなのは不安を感じる)。
    医療分野におけるAI利活用に関する法的課題と取組状況—「医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドライン」の紹介は、仮名加工情報の活用は良さそうに見える。
    行政分野におけるAI利活用の展望と課題は、仕組みで対応する為にポストを設けるのはよいとして、できたポストを埋めて機能させられるだけの人がいるのか疑問。
    企業による主体的なAIガバナンスの必要性と課題—「AIガバナンスナビ」の自己診断結果からは、ポジショントークめいたものも感じたし、この調査に応じた企業の数も考えるとここの結果からどこまでのことをいうことが可能なのかよくわからないと感じた。
    特集は、欧米まで視野に入れた現状の鳥瞰というところか(中国での活用状況とかは情報がないのだろうか)。「バスに乗り遅れるな」感が先行して大丈夫なのかと感じたのも事実。
  • 時の判例
    プロバイダの件(詳細略)は、法改正に伴う対応についての解説が興味深い。
    特別地方交付税の件は従前の議論の紹介が興味深く感じた。
  • 判例研究。
    経済法の取引段階の異なる事業者を介した情報交換による基本合意を認定した事例は、課徴金納付命令の限界についての指摘が興味深く感じた。
    商事の市場閉鎖効果を伴う排他的取引と排除型私的独占は、市場確定に関する検討が興味深く感じた。
    役員退職慰労金支給議案の不提出と代表取締役不法行為責任は、議案不提出が退職役員への不法行為となる理屈付けの不足の指摘にはなるほどと思う。
    取締役としての権利義務を有する者における報酬請求権の認否は、本件の権利義務取締役の報酬請求権が職務の有無にかかわらず認められるべきという検討や本訴と反訴との結論の妥当性についての検討に、おおっと思う。文末にdisclaimerがあるのにも納得。
    労働判例の大学非常勤講師の「労働者」性と「業務の性質」論は、「業務の性質」論への批判に納得。
    経歴詐称を理由とする採用内定取消しの有効性は、そもそも企業名が出ているのがなんとも。評釈最後での指摘には賛成。
    租税判例所得税法157条の適用について争われた例は、判断枠組みの検討が興味深い。
    渉外判例のハーグ子奪取条約実施法における返還拒否事由としての「子の異議」は、評釈での海外での考え方も踏まえた分析が興味深い。
    刑事判例の不正入手した秘密鍵による暗号資産NEMの送金行為と電子計算機使用詐欺罪における「虚偽の情報」は、従前からあった犯罪類型に引き直して解説しながら分析しているのが分かり易く感じた(が、内容についていけたのかは自信がない)。