労働法はフリーランスを守れるか ――これからの雇用社会を考える (ちくま新書 1782) / 橋本 陽子 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。

 

時節柄(?)、いわゆるフリーランス新法についての本かなと思って買ってみた*1フリーランス新法それ自体の解説もあったが、思ったほどの分量は割かれていなかった。その意味では、期待外れという側面もなかったわけではない(汗)。

 

本書で語られているのは、むしろ、かの新法が制定されるに至った状況、労働者性が必ずしも認められないような、これまでにあまりなかったような働き方をされている方々が出現したことを受け、こうした方々をどう保護していくか、というあたりの検討、それを欧米の複数の国の事例と比較の上で論じている。いわゆるギグワーカーは、別に日本だけで生まれたものではなく*2、他国での対応を比較してみると、差異があって、その差異が生じた原因のようなものまではわからないとしても*3、差異そのものの存在からして興味深く感じた。

 

対応の仕方としては、こうした方々を「労働者」と認めて保護するという方向性と、「労働者」とは扱わず別枠で保護を及ぼす方向性があるように見受けられる。後者の場合は、前者に比べると保護の内容が手薄になりがちなようで、著者は前者の方向性を取るべきではないかと思うし、個人的にもそうあるべきなのだろうと感じる。そういう視点からすれば、今回の新法での保護は、必ずしも十分なものとは言いきれないのだろう。従前よりは事態の改善になるだろうから、その点は一定の評価をすべきなのだろうけど。

 

ただ、事業者側の企業内法務担当者としてみた時には、対応が大変だろうな、という思いも禁じ得ない。これから対応に向けた準備もしないといけないとなると余計にそう感じる。発注者側に目立ったメリットがないとなると、社内での抵抗等も想定しておく必要があるのだろう*4。ともあれ、施行時期も11月1日に決まった模様なので、そろそろ本腰を入れないといけないのだろう。

*1:新書なのでロクに見ずに買っても懐への打撃はそれほどでもない。

*2:話はそれるが、法律事務所のアソからカウンセルになられた方のケースが取り上げられているのが印象深い。

*3:その辺りまで遡ろうとすると、調査が大変だろうし、仮に調査ができたとしても、少なくとも新書では紙幅が足りないことは間違いないだろう。

*4:理不尽に思わないでもないが、そうした感情面の反発などにも一定程度の対応をしないと、見えないところで何かが起きる確率が上がるというのが、個人的な感覚なのも確か。