聞く技術 聞いてもらう技術 (ちくま新書 1686) /東畑 開人 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。万人が目を通しておいて損のない一冊と感じた。

 

 

現代の「聞く」の不全の回復をテーマに、「聞く」の回復の為にはそれを支える「聞いてもらう」から始めるべきということで、本書は、実用的なマニュアル、「聞く」をめぐる時評、その時評の背景にある考え方のカウンセラー目線での解説、を組み合わせて、「聞く」「聞いてもらう」について解説している、というのが、本書のざっくりとした紹介となるものと考える。

 

臨床心理士の著者の語り下ろし部分が多く、そのせいもあって、文章自体がとても読みやすく、読み進めやすかった。専門的な考え方の解説にも、専門用語をむやみに振り回さず、日常的なものに例えるやり方は、別の分野の専門家のはずのこちらとしても、参考になるところがあるとも感じた*1

 

「聞く」、つまり、語られていることを言葉通りに受け止めること、と「聴く」、つまり、語られていることの裏にある気持ちに触れることとを比較すると、前者の方がずっと難しいと著者は指摘する。この両者を比較したことがないので、僕にはその当否は直ちには分からないが、確かに「聞いてもらえない」という事態はあっても「聴いてもらえない」はないかもしれない。その指摘のうえで、著者は「聞く」の不全の為、「聞く」とそれを支える「聞いてもらう」の回復の手段を解く。解かれている内容については、小手先のテクニックとして書かれているものについては、無意識にやっていそうなこともあり、意識すればできそうな気がするものが多く、機会があれば、自分でもやってみようかと思えてくる。

 

話をすべき・聴くべき時、例えば、企業内法務の立場であれば、通常の業務のヒアリング、契約書の内容審査などで社内の依頼者から話を聴きとるようなときには、本書に出てくるようなやり方を意識しなくても良いのかもしれない。他方で、話をする・聞くべき関係性がないところで、話を聞きたいようなところでは、本書の内容を理解しておくと、有益なことがあると思う。例えば、企業内法務でも、ハラスメントの「被害者」の人の話を聞くときや、管理職になって部下の様子を見る時とかには、使い道があるかもしれないと感じる。自分の話を聞いてもらいたいときにも、同様に有用と感じる。そんんなこんなを考えると本書は誰にとっても目をとおしておいて損のない一冊と感じた。

*1:こちらの領域?の場合は、誤解を避けないといけない場合には、使いづらいこともあるが、使うべき時とそうでない時の峻別をしたうえで、ということになるのだろう。