ゼロからマスターする要件事実 ――基礎から学び実践を理解する / 岡口 基一 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。受験生・修習生には良い本なのだろうと思う*1

 

分限裁判との関係で時間があると思われる岡口裁判官の手による要件事実本の新作。同裁判官の支援の意味で購入していたものに目を通してみた*2。修習が終わるまでの間も不勉強だったし、その後も訴訟自体に接する機会もないので*3、復習の意味もある。

 

予備試験・司法試験の受験生(ロースクール学生も含む)に対する要件事実の解説本については、既に著者の手による書籍が出ているのだけど、本書は基になったのが月間税理での連載ということもあってか、認定司法書士受験生も対象となっている。

 

この段階ではここまで理解していれば良いという割り切りの下で、段階を追って解説をしている点が既存の同じ著者の書籍にはないところで、これは一つの訴訟類型の下での攻撃防御を、複数の段階(章)に分けて解説することにもなり、相互参照を充実させたとしても、時に読みづらく、特に修習を終えた人間が復習の意味で読むのに適しているかというと、疑問の余地がないではない。他方で、受験生にとっては、学習範囲を狭くして、やるべきことを明示する意味で有用なのではないかと感じた。また、段階の分け方については、初心者段階と初級者段階の区別も正直よく分からなかった。初心者で訴訟の中での要件事実に関する全体像を把握させることが目的ならば「よって書」について何ら言及がないのは適切とは言い難いのではないかと感じたからかもしれないが。また、予備試験受験生の次が、上級者段階として修習生・法曹対象なのだが*4、司法試験受験生はどこまで読むべきなのか、明示がないのはやや不親切な気がした(予備受験生と異ならないとは思うが)。そして、修習生・法曹段階の次の要件事実段階というのもよくわからないし、その前の段階との区別もよくわからなかった*5*6

 

解説は簡潔ではあるが丁寧で、これ一冊と適切な問題演習をすれば、おそらく修習終了までの要件事実については、身につくのではないかと感じた。前述の読みづらさがあるので、相性が合わないということもあるとは思うが*7

*1:が、現時点での受験生・修習生ではないので、推測でしかない。

*2:分限裁判の対象となった件については、岡口裁判官に非がないとはいえないだろうし、そのことをもって裁判官の地位を追われるのはある意味で自業自得という見方も可能だろう。ただ、弁護士にもなれないという分限裁判が妥当かというと、流石にそこまではやりすぎなのではないか。

*3:インハウスの立場ではこのことは必ずしも悪くない

*4:なお、第4章第1節Vウで出てくる請求原因のうち③については、類型別にそのような記載を見つけられなず、なぜそれを請求原因に上げているのかは理解できなくもないのだが、個人的にはよく分からなかったと感じた点はメモしておく。こちらの理解不足ゆえの誤解かもしれないが…。

*5:最後の方にある要件事実論についての著者の主張のようなものも、主張整理手続への活用以外は、目新しいものは感じなかった。

*6:話はそれるが、参照文献のところでし「民事訴訟における要件事実」2巻本が出てきていないのが、時代の変化を感じさせた。こちらも目を通したことはないのだが。

*7:その場合は個人的には大島本(一冊で要件事実をまとめた本の方)をがおすすめする。僕自身はそちらで修習を乗り切ったので。