知識ゼロでも大丈夫!!貿易実務がぜんぶ自分でできる本 インコタームズ2020対応 / 木村 雅晴 (著)

ざっと目を通したので感想をメモ。貿易周りの入門書として、有形物の輸出取引に関与する企業の企業内法務であれば、手元にあると有用な一冊だと感じた。

 

貿易実務は、それはそれで一つの専門性ある分野と理解していて、メーカーだと専門の部隊が居たりする。製品の輸出に関していちいち調べていたのでは非効率なのでそういうことになる。それもあって、メーカーの企業内法務で、貿易周りの相談を受けた経験は正直ほとんどないのだけど、日本から海外に製品を送って事業をしている以上は、このあたりの知識はあった方が良いと考える。手元にこの種の本があったのだが、留学直後に買ったもので、流石に古すぎたので、今更ではあるがINCOTERMSも2020になったということで、今回本書を購入してみた。

 

見開きで一つのテーマについて解説していて、右側にまとめの図表、左側に解説という構成。モノの輸出入の流れに沿って解説が進むので、読み易い。巻末に専門用語の用語集があるうえ、索引もしっかりしているので、貿易実務の入門書や、この分野の用語でわからないことがあったときに調べる本としては適当な感じがした。

 

モノの輸出入が様々な関係者の絡む複雑な過程であることが良くわかるし、それゆえに手続きのための書類作業も複雑なものとなることも良くわかる。この辺りは流行りのデジタル化で多少は省力化・効率化が今後進むと良いのだろうけど、関係者間で共通のプロトコルが採用されないと却ってややこしくなりそうな気がするので、そうなるのには時間がかかるような気がする。

 

本書の表題では、販売戦略上の観点もあってか、本書1冊だけで貿易実務ができると銘打っているが、専門性を考えると、流石にそうなると考えるのには無理があるような気がする。本書では、一連のプロセスの全体像を把握するのが関の山という気がするし、全体像を要領よくまとめているという意味では本書は良いという程度に留まる。各手続きにおける書類について、こういう内容を書くべきもの、という通り一遍のことが書かれているのみで、問題事象が生じたときにどういう対応をするかについて、手掛かりとなる記載は多くないから、その辺りについての文献の案内などがあるのが望ましいと考えるが、その辺りはもう実務で体験しながらやるしかないということなのか、銘打った以上は、ということなのかはわからないが、そういうものが一切ないのは、本気で実務の渦中に飛び込もうという方々にとっては嬉しくないものと考える。