月刊法学教室 2022年 02 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

 

  • 橋爪先生の巻頭言は、支払能力も意思もない者が回っている回転鮨を取る行為が詐欺罪になるのか、というのは、いかにも刑法学者の先生がネタにしそうな話だなと感じた。

  • 法学のアントレは教科書などを如何にして読むかというお題。謎を解くように、味読せよということのようだけど、謎ときをするには、前提となるインプットがないと難しいし(この点は文中で指摘があった)、味読するだけの時間的余裕の確保も、昨今は容易ではないことが多いのではないかという気がする。
  • 外国法はロシア。「法ニヒリズム」と「法フェティシズム」が併存するというのは興味深い。最近の状況について*1、危機対応型であるプーチン大統領の意図の解釈も興味深い。
  • 判例セレクト。
    憲法の旧警備業法の憲法22条1項、14条1項適合性についての件は、被保佐人を警備業務から一律排除するのを憲法22条1項、14条1項違反とする論旨は理解可能。個別に別途検査して決めるのだろうから、直接関係しない基準で一律排除はイカンということなのは理解するし、納得もするのだが、被保佐人で警備業務が大丈夫なのかどうかについては、何についてであれ判断能力に疑義が呈されている人にお願いして大丈夫かという疑問は残る。
    行政法の、沖縄高江への愛知県警機動隊派遣住民訴訟控訴審判決は、事件の概要の記載からすれば控訴審の判示は妥当だろうなというところ。
    商法の効力発生条件を付けた株式分配型スピンオフに関する株主提案を求める仮処分について保全の必要性が認められなかった件は、提案のタイミングとその時点で会社側が招集通知を作って発送準備までできていたという状況だと、実現可能性が不明な提案のために準備をやり直すのは酷すぎるので決定の内容に同意。
    財産分与審判の申立てを却下する審判に相手方が即時抗告をすることを認めた決定については、上訴の利益の原則が適用されないという決定の背後にあると思われる考え方についての評者の解説が興味深いが、評者の指摘する疑問点・問題点はどうするのかというのは気になった。
    ひそかに睡眠導入剤を摂取させて自動車を運転させる行為と殺人の故意について判断した最判については、解説の中での理論的観点からの論点の指摘、特に錯誤論との関係での問題点の指摘、が興味深かった。
    手続遅延による少年法不適法と量刑の件は、制度上は判旨の通りかもしれないけど、結果の妥当性に疑義が残った。解説で指摘されている立法論による解決が適切なのだろう。

  • 演習。
    憲法は裁判の公開とプライバシー。最近の民事裁判とのIT化との関係についても言及があるのは重要なのだろう。民事裁判のIT化については議論を追いかけていないが(インハウスで訴訟が多くない勤務先ので)、個人的には、何でもかんでも公開して大丈夫なのかは気になる。目の前の審理の適正確保のために、訴訟提起を躊躇うような事態になってはまずいのではないかという気がするわけで、その辺はバランスが必要なのではないかと、傍目から見ていて感じる。ネットで公開したら完全に消去できないことも考えると余計にそう思う。
    行政法。熱海の盛り土の件が想起される事案での規制権限不行使をめぐる国賠訴訟の構造の解説。個人的には保護範囲要件を必要とする意味や、違法性についての考え方によって要件上の位置づけが異なる点の解説がわかりやすいと感じた。
    民法不法行為債務不履行責任の関係に関する最近の判例の動きについて。最近といってもこちらが受験生時代に接したものであるが、すっかり忘れていたものもあって、焦る。
    商法。株式譲渡の要件や手続きについて。受験勉強のときに、このあたりの条文操作が面倒だなと思いながらテキストを読んだのを思い出した。
    民訴。上訴の利益や上訴審の新版範囲など。それぞれについて知らない説が記載されていて、なるほどと思いつつ読む。重点講義とか書棚の飾りになっている状態だし(言い訳をすれば訴訟のほとんどない会社にいるので、復習する契機がないわけで...)。
    刑法。虚偽供述と刑事司法作用に対する罪についての解説。虚偽供述の処罰は、国家が国民に対して「真実を述べる義務」を刑罰で強制することを言いするから刑法はその処罰に慎重な態度を取っているという指摘はなるほどと思って読む。
    刑訴。録音録画記録媒体の証拠利用や司法面接の録音録画の場合の扱い方など。未成年者の供述の取り扱い方の難しさについて、考えたことがなかったが、一定の場合には録音録画記録媒体を証拠として利用することが必要となることもあるのかと納得。
  • 講座。
    憲法は財産権。憲法上の財産権の理解の仕方についての内容形成論と自由な財産権論の対立は、こちらがどこまで理解できたかはさておき、内容は興味深かった。
    行政法。行政の実効性の確保。行政のリソース不足が原因となって機能不全になっていると思われる制度が複数あるようだけど、何らかの対策は講じられているのだろうか。ここしばらくの政権の能力に期待するのは無理があるとは思うものの、気にはなる。
    民法というか家族法。離婚法の歴史的展開、西欧、日本の離婚法のそれぞれについての解説は、圧巻。流石としか言えない。「西欧法は、求めれば救済が与えられることを前提にして、子を連れて逃げる自力救済を禁止する。ハーグ子奪取条約は、そのような自力救済で国境を超えたときに、元の国に戻して国内手続に乗せる内容の条約である。しかし日本は、国内にそのふさわしい手続がない」との指摘は重要と感じた。前提を欠いたところでかの条約に基づく議論を殊更に唱道するのは適切とは言い難いということになるのだろう。あと、おそらくは日本の家裁は、リソースの制約もあるのかもしれないが、西欧の考え方からすれば、関与が少なすぎる、当事者に投げすぎ、ということになるのだろう。
    会社法。締め出し(片仮名で言わないのが良い)。設例については、金銭解決が妥当なんだろうなと思って読むと最後に損害賠償請求の話になって納得感が高い(汗)。
    民訴。知的好奇心を刺激するかどうかは読者が決めることだというのは、最終回まで言い続ける所存。民事紛争解決手続の紹介として、倒産法と非訟手続の概説。この紙幅だとこうなるのかなという感じしかしなかった。
    刑法。誤想防衛。理論面の検討は、正直ついていけないものを感じた。議論の実益が十分に見えてないがゆえに、興味が持てないのと、著者の文体にいつまでたっても慣れない(おそらく最後までこの状態だろう)のもあいまってのことだけど。僕が合格したころは本試験も学説問題が出なかったので、学説の議論から距離をおいて勉強をしていて、刑事系のこういう話に興味がなかったこともあって、それは試験合格という意味では適切な対応だったけど、現時点でみればもう少しやっておいてもよかったのではないかという気もする。

  • 特集2 
    宇宙と法学。小塚先生のイントロダクションについで、行政法学から見た宇宙法。既存の行政法の延長線上に宇宙での諸活動を規制する諸法律を位置づけているのは面白い。脚注で宇賀先生の関連する著作が紹介されていて、宇賀先生の多作さにもあたらめて驚く。
    石井先生の原稿は宇宙有人飛行と国際公法。商業利用で何かが起きたらどうなるんだというところや、空域と宇宙空間の境界付近を通ると思われるサブオービタル飛行の扱いは確かに問題なわけで、その点の現状の解説が興味深い。
    堀口先生の原稿はスペースデブリに関する宇宙環境法の現状の解説。デブリの管轄権の所在から問題になり得るというあたりからややこしい話になるのはある意味で当然なのだろう。ソフトローでの対処もやむを得ないのだろう。
    JAXAのお二人の原稿は、宇宙探査と宇宙資源開発をめぐる法の現状の解説、というところか。宇宙空間での犯罪発生時の刑事裁判権の問題への対処がなされているあたり等は、そういうことを想定する段階まできているのか、とやや驚く。
    特集2は宇宙と法学の現時点での素描という感じで、既存の考え方をどう応用して規律を作っていくかというあたりは面白さを感じる人が多いのではないか。
  • 最後に特集1。飯田先生の原稿はソフトローについての総論的な解説。ソフトローという言葉の起源から説明している内容は知らなかったので興味深い。ただ、長所と短所の指摘のうち、短所として「分かりやすさ」の欠如を挙げているけど、当否を争いづらいことやむようになった時の排除がむずかしいこともあげるべきではないかと感じた。
    斎藤先生の原稿は、行政分野におけるソフトローの例示というところだろうか。解釈基準・裁量基準の位置づけが良くわからないと思っていたが、ソフトローと見るというのは考えたことはなかったが理解可能な気がする。法律による行政の原理との関係が気になるが、その点についてもっと言及がほしかった。ソフトローといえる現象面の例示に重点を置いていたようだから仕方ないのだろうが。
    野田先生の原稿は、コーポレートガバナンス分野でのソフトローが機能している状況の解説。上場企業で企業内法務にいるので新しい情報はあまりないように感じたが、Comply or explainの内、後者を取る事例の少なさが問題である旨の指摘は重要と感じた。
    清水先生の原稿は、商取引分野では、ソフトローと言われてもおかしくない種々の決め事が昔から様々に存在して、それが故に、どこまでがソフトローなのか、ソフトローとは何なのか、という点を把握しにくい状況が示されていて、面白かった。そういうことは考えたことはなかったが、インコタームズとかは確かにソフトローと言えなくもないので、なるほどと思った。
    桶田先生の原稿は、アニメ分野におけるソフトローの利用場面に関する現状の描写、というところか。厳しい状況にある部分も含め興味深い。書面化などが足りていないものの、それでも何とか回っている理由とかも興味深いが、そういう状況で大丈夫なのかという気がした。
    大西先生の原稿。意識高い。以上。
    特集1は、ポジショントークめいたものを感じたところもないではなかったが、ソフトローなるものの、これまでのところについて、一定の側面での解説というところなのだろう。

*1:既に事態がさらに進展してしまったが