削る感じで

何となくぼんやりと頭にあることをメモしてみる。いつものごとくこちらの経験した範囲に基づく話なので、異論などがあり得ることはいうまでもない。似たようなことを前にも書いているかもしれないが、そこもご海容を賜りたく(汗)。

 

現職*1の企業内法務では、部署としては、契約書の審査もすることになっている。僕自身は部署の責任者なので、契約書の審査については、基本的には、部下の方々にお任せしていて、2次チェックのようなことをすることが多い(部署方針で、僕が入る前から複数の眼で見て折り返すようにしている)。自分が直接関与するのは、何らかの理由で下の方々にお願いしづらいときに自分で手を動かすことが稀にある程度、という状況。

 

転職して、事務所から企業内に「戻った」と感じたことの一つには、契約書の文言に対する態度がある。事務所の時に契約書の起案とかをしていた時は、依頼者の利益をできるだけ守る方向でドラフトを考えていたところが、企業内法務だと、もっと割り切っている感じがある。自社と契約相手との交渉力の格差を考えて、交渉しても無駄なところは諦めるし、高望みをした起案もあまりしない。契約相手から来た案文を審査してコメントを付すにしても、相手と交渉することを求めるというよりも、提示された条項を受け入れた場合に生じうる問題点について、因果を含めるという感じになりがち。当事者でもない、「外」の事務所の弁護士が勝手に当事者間の交渉力の格差について、決めうちをするわけにも行かないから、こういう割り切りは「中の人」でないとしづらいのだろうと思う。

 

不測の事態に備えて文言を精査し、自社に有利な文言を考えることも、リスク管理という面では重要ではある。契約上有利な形にすることでリスク回避ができるわけだから。とはいえ、そうした有利な文言を得るためには交渉が必要となることもあるし、それには時間もかかる。他方で、取引自体の時間の制約もある。収益認識との関係で、契約を締結して売り上げに計上したいという申し入れは無視しづらい。契約後に納品して、納品したものを使って生産を開始する、というあたりのスケジュールも意識しなければならないこともある。また、交渉にかけられる人的資源にも限りがある。そんな中でリスク管理でどこまで拘るべきか、それよりももっと優先すべきものがある、そういう話になりがち*2。契約相手との継続的取引の中にある場合で、何か不測の事態が生じても、契約の文言以前の、ビジネス的な交渉の中で決着できるとなればなおのこと。

 

そんなことを考えると、契約審査において、どの条項にどこまで拘るべきか、拘りどころをどこまで削るか、ということを意識した審査にならざるを得ない。費用対効果、というところになるのだろう。この辺りは自社のそのビジネスにおける交渉力の格差などの立ち位置を踏まえて考える必要がある。現職に入った当初は、そのあたりが掴み切れていなかった。拘っても交渉力上押し切られる確率の高いところに拘り過ぎて*3、審査結果を折り返すのが遅くなったり、結果として、契約がまとまるのが遅れるようでは、法務部門の事業部門に対するサービスの質としては低いと言われても文句が言いづらいだろう。この辺りは契約審査をし続ける限り、悩み続けることになるのだろうと感じている。

 

*1:サプライチェーンの中にあるものを作っているメーカーにいる。基本的には買い手側の方が交渉力は強い。

*2:こういう話になるからこそ、企業内に相応の人員がいる場合には、通常の取引の契約を外の弁護士事務所に見てもらうという話にはならない。割り切れるだけのインプットをしても、費用対効果が合わないという結果になるのが見えているから。M&Aのようなリスクが大きな話になれば、こうした意味での費用対効果の上からもそのような行為が正当化されることになるというだけのこと。

*3:当然のことながら、取締法規違反のようなところはこういうところには含まれない。