ジュリスト2021年6月号

例によって呟いたことを基に、雑駁な感想のメモ。

  • 連載の改正会社法セミナー。会計監査人選任議案への執行側の関与については、いや関与せずにできるリソースあるの?という突っ込み?に納得。リソースの手当なしに執行の関与だけ禁じても意味がないのではないか、と感じるところ。
    内部統制の話は、IとIIについては、規定の文言と実体との乖離についての議論が面白かった。IIIの親会社取締役(会)・業務執行者の子会社管理に対する責任のところは、そもそも子会社の管理をしないという選択肢についての議論が興味深かったけど、ノンコアの事業分野に係わる子会社で、親会社側に管理能力がないような時はどうなるんだろうと疑問。将来の事業拡大の種みたいな形で子会社を持つ場合、親会社側も勉強しながら管理するみたいな話になることもあるのではなかろうか、その場合には少なくとも当座は管理能力が育ってないということもあるのではないか、そういう時にですら管理能力がないなら子会社化するなみたいな議論になるのだろうか。IVとVも、本体でない、外部であるところにどこまで「管理」という形での関与をすべきかというあたりが興味深かった。
  • 特集。明らかにawayな感じで最初から気が重かった。座談会は説明なく飛び交うテクニカルタームに眩暈を禁じ得なかった。参加者の方々は、ご本人たち自身はは理解していて話していても読み手が置いて行かれる感が満載。こういうのは編集部が注を付けるなどの対応をすべきだったのではないか。内容的には法学研究者以外の視点も交えてゲノムデータの利活用の現状と展望、利活用の法的課題を概観したというところなんだろう。社会に対する効用もあるのだろうが、相応の規制がないと面倒なことになりそうという印象は残った。
    座談会の後に米村先生の論文。特集の趣旨説明があるので、こっちが先で、寧ろ座談会は、その他の論文の後に、特集の一番最後に載せるべきだったのではなかろうか。タコつぼ的な規制のパッチワーク故に規制が十分及んでいないところがあるということと理解した。個人的には同意についての議論がとっつきやすくて興味深かった。
    長神論文は、バイオバンク運用におけるゲノムデータの利用についての問題点の整理というところか。こちらの印象としては法規制のせいで利用が進まないとご不満を述べている印象だが、無闇な利用で不測の事態が生じるのを防ぐために規制があるはずで、不満だけ述べられても...という印象が残った。
    山本論文は、ゲノム医療のために得られたゲノムデータの扱い方、特に異常を引き起こす可能性のある遺伝子データを本人に知らせるべきか否かという倫理的な問題点は、興味深い。Ignorance is blissという表現を思い出すが、他方で知らせなかったことにつき知らせない側が責任を問われる可能性もあり、対応の仕方が難しいと感じた。
    中込・北山論文は、ITベンダーサイドからみたゲノムデータの利活用と病院情報システムについての記事というところだけど、こういうことをしているというのはわかるけど、セキュリティとかどうしてるのかは不明。もっとも迂闊に書けないのだろうけど。 
  • 海外法律情報。
    フランスの、アフリカの文化財を返還する法律の記事は、背景の解説が興味深い。
    英国のEU離脱に伴う法整備の記事は、状況の概観ができるのが有用。
  • 時論。保証人の合併が生じたときの債権法改正後の民法の規定の不具合と不具合に対する解釈論での対応について。議論はなるほどと思うけど、どこかに別の落とし穴があるのではないかと気になるとともに、著者が某たかし君なので、なぜこのタイミングでこういう内容の論文なのか、何か裏があるのではないかと疑念を禁じ得ない。
  • 霞が関インフォは、離婚に伴う子の養育問題の検討状況の紹介というところ。家族法制部会の検討の議事速報が日本語・英語で載っている(確認はしてないが…)というのが興味深かった。
  • 時の判例
    泉佐野市のふるさと納税の事件は、委任立法の審査の仕方、特に委任の趣旨の理解の仕方が興味深かった。
    選挙の取消の訴えについての事件は、瑕疵の連鎖を肯定するのであれば、そうなるかなと思ったりした。本判決とS45最判との関係については、何だか肩透かしな気がしたけど。
    特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在確認訴訟は、確認の訴えにおける即時確定の利益からすれば、この事案の下ではこういう判断になるのも納得するところ。とはいえ、訴え提起のタイミングを遅くしていたら話が変わる余地があったのか、という点が気になった。
    違約金債権の取得が破産法72条2項2号の「前に生じた原因」に該当するかが問題となった件は、「前に生じた原因」に相当する法律関係時点での相殺期待がある程度漠然としたものにならざるを得ないだろうから、妥当な話なのではないかと感じた(月並)。
  • 判例速報。
    会社法の事件は、事案が面白すぎるのを別にすれば、株券発行会社における株券の交付がないときの扱いについて最大判S47.11.8民集26.9.1489の適用範囲について、特に非公開会社でどうなるのかは、興味があるところ。
    労働法の雇止めを認めた事件は、管理職と原告の面談時に不更新の旨の説明があったことから、契約継続への合理的期待がないこと、を認定しているが特に、その前の契約において明示の同意にも拘わらず、自由意思による同意と認められないとして、前記期待をみとめたことと整合的なのかという疑問が残った。
    独禁法分野のアマゾンの景表法違反事件は、「表示内容の決定に関与した事業者」該当性は、あいまいだから、その点を検討せずに、被告事業者の表示に関する権限を直接検討したようだけど、そういうアプローチが証拠上取れないときとかどうなるんだろうと疑問が残った。まあ、今後の進展に期待だろうけど。
    知財分野の発信者情報開示請求事件は、全文改変なしの転載のうえ、行間変更と勝手にタイトル付加までしたら、さすがに同一性保持権侵害は認められるのではないかという気がした(月並)。
    租税分野の固定資産税の課題徴収に係る損害賠償請求権と除斥期間の起算点の件は、課税の仕組みからすればそうなるよなと思う。
  • 判例研究。
    経済法のリサイクルトナーの件は、指摘のあるように、端的に権利濫用を認めるという方が説明がシンプルになってわかりやすくなるのではないかという気がするけどどうんだろう、と疑問。
    運転年齢条件特約における「業務に従事中の使用人」該当性が問題となった事件の判例研究については、判決の判断の妥当性についての評釈での指摘に納得。家庭内労働については前記の該当性判断に際しても、その他の場合とは性質が異なるところがあるだろうし。
    議決権拘束契約の法的効力の事件については、この種の契約の効力を個別事情次第とある意味「投げた」判旨は予測可能性が低すぎる気がするから、評釈が指摘するように、実質全株主合意に近いものについては、原則効力を認めたうえで、効力が認められる範囲を個別に検討するアプローチの方が良いのではないか。
    任意自動車保険の保険会社の被害者に対する過誤払金返還請求事件については、評釈で指摘されている通り、結論を導く法的構成の検討が足りているのか疑義があるように感じた。
    労働判例研究の事件は、生活保護法周りをまったく知らない(保険だって知らないけどもっと知らない)ので、何とも言いづらいが、被保護者がボケた後には保護費は保護廃止後も回収不能になりかねないけど、それがどこまで妥当な話かよくわからないと感じた。
    労働判例研究のもう片方の、違法なパワハラの事件についての事件は、対象行為が純然たる経済行為であるとして国賠法1条1項の適用を否定してるけど、そんなに截然と切り分けられるか疑問*1。もちろん個人責任を認めさせるうえでは適用否定というのは悪くないとは思うけれど。
    租税判例研究の事件は、過去の事業年度の収益などに事後的に変動事由が生じて、それを都度遡及して修正するのも、修正後の処理が煩雑になりそうなので、評釈の批判するところは理解できるとしても、やはり判旨の方が妥当な気がしたのだが…。
    渉外判例研究の事件は、血縁関係のない父からの生後認知という時点で何だか微妙というか、それは認められないよな、としか思えなかった。

*1:もっともこの事案だと、原告の職種からすれば、分けられるのかもしれない...(汗