ジュリスト2021年4月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

 

  • まず最初に読んだのは、今回から連載開始の新会社法セミナー。今回は監査等委員会設置会社についての座談会。こちらは監査等委員会設置会社の実務の経験がないので、こういうところが問題になるのか、と驚きながら読んだ。錚々たる学者の方々の分析と実務家サイドのコメントのぶつかり具合が、不勉強な当方でも読んでいて面白かった。一点気になったのは、監査等委員会設置会社に対する評価。利用数の増加について、投資家サイドの方の口調が、必ずしも肯定的でないというか、留保を置いた形になっているものの、反対側面への具体的な言及がなかった点(元から指摘のある点を考えれば、反対側面があるのはおかしな話でも何でもない)。これは次回以降のどこかで出てくるのだろう。 いずれにしても次回以降にも期待。
  • 特集。山本論文は全体のイントロというところか。行政手続のデジタル化が十分進まなかった理由を考えるというところは、着眼点としては面白いと思う。気になったのは「行政機関が情報システムを用いる場合、技術面に関する何らかの変更のみならず、法制度等の変更にも対応しなければならず、継続的な管理・改修が必要になる」という点。システムが肥大化して管理改修の手間が膨大になることの危険性は某みずほ銀行の例を持ち出すまでもなく明らかと思うのだが、行政のリソースが今後劇的に増えることが想定しにくいとなると、寧ろシステム化する範囲をどう抑えるかという議論があるべきなのではないか。あと、昨今の官僚の能力の「劣化」とかが見受けられるところで、新しいことをきちんとできるのか、そのあたりの状況もどこまで踏まえられるのかというのも疑問。そのあたりは行政学からのインプットとかあった方が良かったのではなかろうか。
    須田論文は、可能性とか期待という表現が出てきたり、ドイツでの事例が出てくるけど、ホントに書かれているものが今の日本の現状を前提に実現可能なのか、個人的には疑問が尽きなかった。できないといけないのかもしれないが、それと実現可能かどうかとは別の議論のような気がする。その峻別ができないのはある意味致命傷になるような気もする。
    友岡論文は、電子メールの情報公開法・公文書管理法上の扱いについての議論は、電子メール自体使われて相当期間が経っているのに、議論が決着していないことにまず驚く。削除ミスを防ぐ意味では、データ量を無視して一切合切保管して、後は、開示を求めるする側が検索の仕方を工夫して対応してはと思う。データ量のインパクトが不明だが、残すべきか残さないでいるべきかを検討する手間を考えればその方が生産的なのではないか。民間企業の対応としては許されるとは思われないが、公文書の性質を考えれば、あり得るのではなかろうかと思ったりする。
    庄司論文は、現状の鳥瞰というところなんだろうけど、地方自治体でのオープンデータの活用が進まない原因の分析が興味深かった。
    佐藤論文はIT技術者の視点からの分析が興味深い。「IT人材が法律をプログラムと同様の見方で読んでしまうと、法解釈に幅があることを理解できず、自分が納得した法解釈以外の解釈を認めない傾向がある」というのは納得。「まずは行政の業務や組織をどう変えるのかというグランドデザインを描く必要がある」という指摘は、IT系の方から業務システムを導入するときのごたごたに際して聴く物言いと似ている気がする。ただ、その物言いがだいたいうまく行かない理由については、IT系の方々としても反省すべきではと感じる*1
    森論文は意識高い系の自治体の方のコメントとしては興味深い。自治体側・市民側の意識を問題しているように見えるけど、そういう問題か、むしろ意識高くなれるだけのリソースが現場にないことの方が問題という気がした。
    陰山論文は、登記のデジタル化の話は、デジタル化でセキュアな登記というのが、実務レベルでどこまで実現されるのかは個人的によくわからなかった。改竄を見抜く仕組みがあってもそれが適切に使われない可能性とかはないのかな。仕組みがあることとそれが常に十全に機能することとは別なので。
    岡村論文は租税手続の話だけど、AIを課税の局面で使う時に過誤が生じた場合の議論は興味深かった。
    総じて特集は、意識高いのは結構なことだけど、足元の現状をどこまで踏まえているのか、分からないという印象が払拭できなかった。
  • 海外法律特集。ドイツの緊急事態制限の記事は、過去の教訓があるとはいえ、彼我の民主主義の成熟度合いの差を感じた。アメリカのマリファナ合法化連邦法案については、取締コストの問題が要因の一つになっていることには留意が必要な気がする。危険性の有無だけが本邦では取りざたされがちに見えるので。
  • 時の判例。不貞行為に及んだ第三者への離婚慰謝料請求の可否についてのものは、離婚慰謝料の従前からの理解の仕方からすればそうなるよなという印象。
    沖縄防衛局の事件については、形式論理ではそういう話になるんだろうけど、裁判所が「逃げた」印象がどうしても残る。
    強制執行費用の事件は、費用法の規定を解説にあるように理解するのであれば、そういう結論になるだろうというのは理解できなくはないけど、費用法2条各号に挙げた費目以外のものを除外して、不当な事態が生じないかは正直疑問が残る。疑問が残るのは主にこちらの経験不足ゆえのことと思われる(汗)*2
    ハーグ条約の件は、同条約117条1項の趣旨からすれば判旨のように判断しないと変だよな、と感じた。
    国賠法1条2項による求償債務の件は、リスク分配としてはそう考えるのが妥当なのだろう。
  • 判例研究。会社法のものは、339条2項の機械的な適用で、残任期が長いときに損害賠償金が多くなる問題への対応策を示すものとみてよいのか、というところが気になった。司法試験の受験勉強でそのあたりを検討したときにどうもすっきりしなかったので。
    商品等表示該当性のものは、評釈での整理(特に判旨Iについてのところ)が良くわからなかった。
    鞄のシリーズ商品形態のものは、不競法2条1項1号の周知性ニーズと類似性ニーズ双方について、両者のバランスを取りながら主張立証に成功した事例ということと理解したけど、原告側がそれなりにリソースをつぎ込んだからこそ実現できたもので、かの業界でそれがどこまでできるのかは正直微妙なことが多いのではないかと感じた。
    メトロコマース事件のものは、当該判決の射程について、パート有期法新8条の下でも影響しうる旨の議論に納得。
    ハラスメント事案への対応のものは、評釈での判旨への批判に納得。被害者に対する会社の安全配慮義務はあるとしても、会社側にできないことを強いる結果になるのは妥当とは言えないと思うので。
    馬券の払戻金の件は、通常馬券とWIN5とで扱いを異にする理由が評釈を読んでも釈然としない。そもそも馬券を買ったことがないからかもしれないが。
    渉外判例研究のものは、準拠法がCA法ということもあって実質的な判断をいていないのは、問題ありなのではないかと感じた。裁判所がCA州法を調べることもできたはずなので。たとえ評釈にあるように判断をしていたとしても結論は変わらないとしても。
  • 判例速報。会社法は、少数株主総会招集申し立てについて、会社側が総会を開催するから、申立却下・抗告棄却されているものの、実際には抗告棄却後に開催を取り消す取締役会決議がされたという経緯は、指摘があるように開催まで手続を留保する実務との関係で、申立人の戦略に問題があったのか気になった。
    労働判例は、この事案からすれば配転命令の権利濫用は認められるのは妥当と思いつつ、指摘のあるように、キャリア形成の期待などを重視しているのは興味深い。
    独禁事例速報は、山陽マルナカ事件の審決取り消し請求事件。排除措置命令の相手方の特定は、ないと困るのではないかとも思いつつも、解説にあるように常に特定可能とも言い切れず、その辺の切り分けがどうなるか、今後の事例の蓄積を期待すべきなのだろうと感じる。
    知財は金魚電話ボックス事件の高裁判決。戦士さんの従前のエントリと併読。著作物性の認定のところは、かなり微妙な判断だったんだなと改めて思う。
    租税判例速報は、事実からすれば、そりゃ秘匿工作といわれるよな、と思ったけど、数々の行為のうち、秘匿工作と認められたものが思ったより少なかったのが興味深かった。

*1:刺激のある言い方をすれば、現状のリソースでは、非IT系の方々がいうようなシステムを作ることができません、能力不足ですいません、という言い方をIT系の方々がしないから、問題が始まっているのではないか、IT系のいうことに合わせないほうが悪いと言っているかのように聞こえる物言いはそれ自体が悪手にして有害ではないかと感じる次第。

*2:この点については、こちらのご指摘を受けたことも付言しておく。