購入して、一通り眺めたので感想をメモ*1。
「法律英語」(その定義はさておき)に立ち向かう上で、重要度の高そうなところを一気にマスターするための単語集、ということのようである。確かに大学受験とかTOEFL、TOEIC、英検とかでは、単語集とかを使うというのはよく見られるところである*2。法律英語についてこういうものが、ないのか、ということで作られたものらしい。宣伝に乗って、ネット上で流行っているように見受けられたので購入してみた。
入試とか、資格試験のように、ある程度ゴールの決まったものに対してであれば、その種のものを使うのも理解はできるのだが、そういう決まったゴールのないところで、そういうものを求めることにどこまでの意味があるのか、個人的には疑義があるが*3、それなりに売れているということは、一定の需要があるのだろうし、仮に、宣伝などもあいまって、そこを上手く掘り起こしたのであれば、悪いことではないのだろう*4。
初歩の段階を駆け抜けるため(そういう意味ではこの本は通過すべき点でしかないとみるべきだろう)の道具として、まず最初のうちに身に着けるべきところに絞って、理解し易い形で提示する、というのは確かに有用だろう。もっとも、どういう観点から取り上げる語彙を絞っているのか*5、如何なる基準で取り上げた語彙を4つにわけたランク付けをしているのかは、本書には記載を見つけられなかったので、直ちにはわからないが、そこは著者の経験に基づくものなのだろう。索引がしっかりしているので、英語、日本語双方から検索可能なのは有用なのだろう。
もっとも、気になる点もある。各ランクごとの用語の並び順は日本語の五十音順であるうえ、収録された言葉の選択の仕方も、どちらかというと、外資系企業の法務担当者が日本法について説明するうえで、必要な英単語(またはフレーズ)の和訳という感がある。法務省の辞書に準拠していることもあって、余計にそう見える。そういう業務をしていたことのある僕にとってはそういう意味では便利に見える*6。
他方で、英米法下で書かれた文書を読み解くうえで必要な英単語(またはフレーズ)の和訳としてみたら、言葉足らずに思えるところもあるように感じた*7。
わかりやすいというか、ベタな例としては、Supreme Courtで、日本では最高裁だが、ご存じの方はご存じのとおり、NY州ではそうではない。こちらをみればSupreme Courtsとあるように、第一審の裁判所であり(故に複数あるからSupreme Courtsとなっている)、丸暗記していると足をすくわれる可能性がある。dissenting shareholderというのがあっても、dissent自体がないのは、アメリカの判例・裁判例での反対意見とかで出てくるdissentの方が重要ではないのか、等とも言いたくなる。discoveryについても、日本的な開示とか証拠開示だけ示されても、米法下での手続きを経験した身としては、首をかしげたくなる。
ともあれ、受験勉強的な単語集に馴染みがあって、こういうものの方がとっつきやすいという層がいるのも事実なのだろうから、上記の意味で使い方には注意が必要な気もするが、そういう層の方々にとっては悪くはない道具なのかもしれない。
*1:up後にいくつか加筆した。
*2:僕自身はTOEFLについては、3800を使ったのを記憶している…。
*3:なお、LLMやNYとかCAのbar examとかとの関係では、どのみち英語でのアウトプットしか求められていないので、一問一答的な日本語での暗記にどこまでの意味があるかというとこれまた疑義があるところ。概念的なところを日本語経由で理解することは、理解の深度との関係で意味があることがあるとしても、それは本書のような単語集のようなものでは達成はできないだろう。
*4:その意味では、需要層が直ちには見えづらいこの企画を通さないというのは、出版社としてはあり得る判断だろう。