アメリカ契約法入門 / 髙田 寛 (著)

久しくこの分野の本を読んでいなかった気がするので、おさらいの意味で購入して目を通したので感想をメモ。

 

外資系企業で法務を経験され、その後アカデミックに転じられた著者が、アメリカ契約法について180頁ほどで概観したもの*1。簡単な設例(一部は実際の裁判例を使っている。僕がLLMでの授業を受けた際に出てきたものもあった。)を解説する形で解説が付されているので、読みにくくはない。

 

この薄さで一通りのことを概観しているという本は、日本語のものでは、他になく*2、それだけで本書の価値があるということもできるだろう。ただ、手頃な分量であることの反面で、個々の記載は、比較的あっさりしている。この記載だけでどこまでの理解ができるのかというとよくわからない。「入門」と題している以上、その先に行くべきというだけの話*3なのだが。

 

また、解説の濃淡という意味では、契約の成立のところが比較的厚めに書かれていて、契約法それ自体の理解という意味では、特にUSのLLMとかで契約法を履修する前提で、その予習のために目を通す、または、契約法の履修後の復習用*4という用途には向いていると感じた*5。他方で、企業法務の担当者の読む本としては、契約の成立のところよりも、もっと担保責任とか救済のあたりの記載が厚い方が良いのではないかと感じた。

 

一点だけ、読んでいて疑問に思ったことがあったので、メモしておく。リステイトメントやUCC法源としている点について、前者は、判例・裁判例のある種の「まとめ」であり、後者は、各州で制定法を策定する際の一つの模範となるべきもの、である。それぞれ、事実上重要なものではあるのは確かだけど、特段の法的拘束力があるわけではないのも事実なので、その法域における判例や制定法と同列に扱うのが適当なのかという点がよくわからないと感じた。

*1:判例・裁判例が背後にあると思われるものについて、サイテーションが必ずしも十分でないように見えるのは、記載の「元ネタ」へのアクセスができなくなっているという意味で惜しまれるが、紙幅との関係ではやむを得ないのかもしれない。

*2:アメリカ法ベーシックの契約法とか、平野晋教授の本とかはもっと分厚い。

*3:この次に読む本という意味では、個人的には、アメリカ法ベーシックの契約法を挙げておきたい。

*4:僕は読んでいて、LLMの時に使っていたCrunchtimeのcontractsに似たものを感じた。

*5:もっとも、そういう用途であれば、日本法との比較をもっと前面に出して、日本法と変わらないところはその旨触れて叙述を簡潔にするのも手なのかもしれない。