基礎から学べるアメリカ法 (基礎から学べるシリーズ) / 岩田 太 (著), 会沢 恒 (著), 髙橋 脩一 (著), 板持 研吾 (著)

アメリカ法の入門書ということもあって、買ったもの*1。一通り目を通したので感想をメモ。分量がお手頃な範囲に収まっていることもあって、USにLLMに行くなら、渡米前に目を通しておくべき一冊だと思った。目を通したうえで、アメリカ法判例百選、英米法辞典と共に渡米時に持っていくと有用と思う*2

 

アメリカ法の入門というと、読者の興味もあってか、どうしても民事のウエイトが高くなって、刑法とか公法系の話が手薄になりがちな気もするけど、本書はその辺りの記載もそれなりにあって、バランスが良いように感じた。その分民事系は相対的に手薄になっていて、不法行為周りの話がないのはやや残念な気もするが、全体を読み通せる程度に収めるためには、記載のある部分についても、概観的な解説に留まっている部分が多く見えるのも含めて、アリなのだろう。

 

とはいえ、特にreal property周りの話は、日本語で手頃な解説が僕らのころは見当たらず、その反面で考え方自体がかなりややこしく、理解するのに時間がかかるので*3、最初のとっかかりを掴む意味では、アメリカのbar exam対策に取り掛かるまえに目を通しておくと良いと思う*4。その他のセクションでも、分量がない分、逆に、どの部分をどの程度解説するかが重要になるが、契約法とか会社法のところで見る限り(これらについてはこちらもLLMで履修したのである程度分かる気がするので)、ここは押さえてほしいというところの絞り方が興味深かった。

 

もう一点、非常に特徴的だなと思ったのは、諸々の制度の根本、たとえばコモンローとエクイティの別や、アメリカの州法と連邦法の二重構造、などは、歴史的経緯の産物なので、そのあたりの歴史を紐解くところから、話が始まることが多いし、それには相応の意義があると思うのだけど、本書は、その手の話から始まっていないところ。いきなり歴史の話だと退屈に思う読者がいるからかもしれない。むしろ、別の意味で特徴的な裁判制度の話から話を始める方が、「訴訟社会」といわれるアメリカを理解するうえでは適切だと思う。

*1:著者の一人が語学のクラスで一緒だったことの方が大きいのだが…

*2:敢えて日本語のものを排するという道もあるだろうが、何か日本語のものを持っていくなら、というところ。

*3:その後の業務で知識を使う機会がほとんどなかったので既にすっかり抜け落ちているが…

*4:p83の図の意味するところをはじめに掴んでおくだけでも話は異なると思うのだけど…