巨大企業の呪い ビッグテックは世界をどう支配してきたか/ ティム・ウー (著), 秋山勝 (翻訳)

近所の図書館にあり、借りてきて目を通して見たので感想をメモ。この分野に関心があれば目を通しておいて損のない一冊だと感じた。

独占禁止法、及び、400年にも及ぶ独占禁止運動(ボストン茶会事件もその中に含まれるというのは、指摘を見るまで理解できなかったが、確かにそうなのだ)を振り返りつつ、現状、特にGAFAなどと呼ばれるハイテク企業にどう立ち向かうべきかを語る本、というのが、ざっくりとしたこの本の概要だろう。著者はコロンビアローの教授にして、オバマ政権下で政府に入っていたし、今も、バイデン政権でこの分野の特別補佐官をしているとのこと。

 

個人的に興味深いのは、まず、独占禁止運動の歴史が400年もの歴史を有していること、それ自体だった。司法試験での選択科目で経済法(要するに独禁法)は選択したし、それ以外でも、仕事の中で独禁法というか競争法について学ぶ機会はあったものの、いつからこの法分野があったのか、ということを考えたこともなかったので、独禁法の歴史それ自体が、非常に興味深かった(もっとも、欧州と米国との考え方の差異についての記載は、記載が淡白すぎて今一つ良くわからなかったが)。

 

次に、そういう伝統が、今は退潮気味である点、と、それをシカゴ学派に原因ありとしている点も興味深かった。かなり筆致が攻撃的にも見えるので、「ここまで言いきれるのか」という疑問はあったが、現状がシカゴ学派の影響を受けていることはおそらく事実と思われるし、執行の現状が描かれている最盛期(IBMAT&Tの解体が現代のネット社会に及ぼした影響についての記載も興味深かった)よりも退潮気味にも見えるのは確か。他方で、現状のIT系超国家企業の種々の所業を見ると、これらに対抗しうる国家側の武器としては独禁法と情報法なのだから、独禁法についても、どこの当局ももっと精力的に執行してもよいのではないかとも感じた。

 

もう一つ興味深かったのは、日本の現状に対する分析。ざっくり言うと、日本のIT企業がいまいちなのはNTTと新電電を解体しきれなかったから、ということのようだが、そうなのかもしれないと思う反面、そういう単純な話なのかという疑問も残った。

 

翻訳で、文章も読みやすく、分量も200頁弱とお手頃にまとまっていることもあり、競争法分野に関心があるのであれば、目を通しておいて損のない一冊と感じた。

 

なお、内容未見だが、著者が本書について語っているものがyoutubeにあったので、リンクを貼っておく。

www.youtube.com