事実認定に関する本を何冊か

ざっくりしたタイトルで恐縮だけど一応のメモ。

訴訟では、認められる事実に対して法を適用する以上、 自分の側に有利な判断をしてもらう、心証を抱いてもらううえで、事実認定の段階の重要性は強調してし過ぎることはないというところだろう。

 

事実認定に関して学ぶとなると、イマドキだと、まず読むのは「事例で考える事実認定」(通称ジレカン)だろう。この本は修習時に配布される白表紙にもなっている。司法試験合格までは、この一冊だけ目を通しておけば最低限足りそうに思えるし、僕もそうした。可処分時間が少ないのに、最低限を超える本を読む余裕はなかった。

 

 

司法研修所の本という意味では「民事訴訟における事実認定」*1があり、僕は、民事裁判の修習時に部総括から、読むべき本として推奨されたけど、今読むとやや古い(平成19年の本なのでそこはやむを得ないのだろう)ような気がするのと、若手裁判官向けという内容なので、ジレカンの次に読むには敷居が高いと感じなくもない。

 

その間を埋めるのが「ステップアップ事実認定」で*2、現役及び元裁判官の方々の手によるもの。僕も、修習時にジレカンとこれ(初版)には目を通した。ジレカンだと総論的な話のさわりしか書いておらず、それでも、二回試験を終えるまでなら何とかなるのだけど、事件類型ごとの着目点などについての定番、というか基本的なところへの見通しをよくするには、「ステップアップ事実認定」が難易度・分量ともにほどほどな感じがしてよい。

 

昨年「ステップアップ事実認定」が改訂された。各論的部分を演習問題の形で扱っているが、それが増えて、インターネット上の名誉棄損の成否や、システム(ソフトウエア)開発関係訴訟のような、最近増えてきた事件類型もカバーされるようになったのは*3特徴的というべきだろう。

 

今回、調べたいことがあったこともあって、「ステップアップ事実認定」(第2版)と「民事訴訟における事実認定」に一通り目を通した。後者が裁判官向けを念頭におかれていることもあって、弁護士や修習生も想定読者にしていて、内容も平易(読者にとって未知と思われる事柄については相応に説明や参照文献の紹介が付されているのも良い)でかつ最新の状況(債権法改正も含め)も踏まえた前者と併読するのが良いと感じた。

 

個人的に印象に残ったのは、一時期TL上でも話題になっていた二段の推定についての解説。「民事訴訟における事実認定」では、各種の裁判例を集めて、どういう事情からどういう認定になったかの適示についての解説があって、これはこれで有用だったが、「ステップアップ事実認定」での、そもそも二段の推定、がいかなる状況下で使うべきものかの、より分かりやすい解説(特に、「二段の推定は、とても重要なものですが、それだけに頼るのは非常に危険です。」という指摘は重要と考える)が個人的には、重要と感じた。諸々のデジタル化で二段の推定の重要性が長期的に減る可能性はあると思うが、少なくとも当面の間は、まだまだその重要性はなくならないと思う。過去に取り交わされた文書の成立が問題になることは続くだろうから。その意味で、二段の推定の重要性は変わることもないだろう*4

 

外部の弁護士にとって、訴訟になった時に、有利な判断を得て、不利な判断を回避するうえで、事実認定に関する技術の習得の重要性は普遍だろうし、外部の弁護士と連携する企業内の法務担当者(資格の有無は問わず)にとっても、その重要性は変わらないだろう。その意味で、この分野はしっかりと学ぶべきだろうし*5、その意味で、この分野にはほかにも優れた書籍はあると思うが、「官製」及びそれに準じるこの三冊はまず紐解くべきだろうと考える*6

 

 

 

*1:アマゾンのアフィリエイトで見当たらないのでリンクなどは省略する

*2:その意図で作られた本である旨の記載が初版はしがきにある。

*3:カバーの仕方の当否は、特にその分野のエキスパートの先生方の視点からすれば色々ありそうだが、何よりもカバーされること自体、評価すべきと考える。

*4:これは素人考えだが、複数の規範をつなぎ合わせて事実認定をしていくという技法それ自体を身に着けることの重要性は、法曹養成の過程においては、おそらく不滅だろうから、その意味では、実務での重要性とは別に、法曹養成課程ではその重要性は、教材の入手のしやすさ、問題の作り易さとかもあいまって、引き続き高いのではないかと思ったりもする。

*5:その意味で、二段の推定に関して、某所で、法曹又は法務担当者としての適性に疑念を抱かせるに足る言辞に接したが、かの言辞を弄した方に置かれては、まずはこの3冊をしっかりと学習していただくことをお勧めする次第。あのような言辞は、そのような言辞を弄する人間を擁している組織自体への信頼を大いに減じかねない(もともと減じるほど信頼をされていたかはさておき)ところと感じるので。

*6:司法研修所の手によるものでは「民事訴訟における事実認定―契約分野別研究(製作及び開発に関する契約)」もあるので、こちらも今後目を通したいと考える。