雛型等についての感想

またかよと思いつつも、思いついたことなどをメモ。例によってこちらの感じたことのメモであり、こちらの過去の経験等にもとづくものなので、他の考え方があり得ることを踏まえてのメモとご理解いただければ幸甚です。

 

「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」を取りまとめました 

経産省が音頭を取るというのは、かつての「護送船団方式」を想起させて、そもそもそういう発想が今どきどうなんだろうというところからして疑問だったりする。強制力がないと標榜する「モデル契約書」だから話が違う、というような素朴な話ではあるまい*1

 

それはさておき、モデル契約書とやらの中にNDAがあるということで、先日来の話の流れで気になったのでNDAの雛型及び解説を読んで気になったところをメモしてみる*2

 

ある程度想定例を設定したうえで案文を示すというのは発想としては悪くはないような気がする。想定例に起因する射程距離の限界も示せるのであれば。ここは、案文を見る想定読者をどう考えるかで話が異なるかもしれない。

 

前提として抜けているのではないかと感じるのは、そもそもNDAを結んで情報を開示して大丈夫な相手かどうかの見極めの必要性の指摘だろう。結局NDAは紙きれ(またはその電磁的代替物、以下同じ)でしかない。紙のうえでいくら素晴らしいことを取り交わしていたとしても、相手方に守る気がないのであれば、そもそもNDAの内容以前に、そういう相手とは付き合っていけないわけで、その辺の見極めがまず必要なのではないか。設例ではその吟味は済んでいるということなのだろうけれど、そこの過程を踏む必要があることの言及はいるのではなかろうか(相手が大企業だから大丈夫というのは、常に正しい命題とは言い切れまい)。

 

本来はNDA締結以前に自社の管理体制を整えるべきというのは、何度かこちらでも書いている通りで、NDAの内容が、自社の管理体制下で実効的に秘密情報を管理できる形になっているかが最重要と僕は考える。加えて、その一環として、情報の層別管理の重要性が書かれているのも重要と思う。

 

秘密情報の範囲(第1条)については、何がこれに該当し、該当する情報がどれであり、それをいつ誰にどういう形でやり取りしたか、が十全に管理できるか、を基準に考える必要があると思われる。秘密情報の範囲、特に、有体物でないものの範囲については、それゆえに慎重に考える必要があり、無限定にすると、自社が開示を受けることがある場合には開示を受けたのか受けていないのか不明確になるので、避けた方が良いのではないかと考えるところ。その意味で、最低限一定の期間内に議事録等の形で書面で記録化しておくことが重要と考える。

また、締結前に情報開示が先行する場合*3に、締結前に開示した情報もすべて無制限に保護対象にするというのも、管理がしづらいので、最低限一定の日よりも後に開示したもの、という程度の特定は必要だろう。

 

第2条でNeed to know原則の指摘があるのはいいのだけど、そもそもここでいうNeedとはどこまでの必要性があれば該当するのか、が疑問。Needがあると強弁すれば範囲が自社内では無限定にならないか*4懸念が残るような気がしないでもない。その意味で、そもそも真に重要な情報は開示しないという選択肢を提示している点は重要と感じる(この点は5条での指摘についても同様に当てはまるか)。

 

第3条の目的外使用の禁止は、この条項違反の察知の難しさの指摘があるのは重要な気がした。

 

クロスボーダーを想定して準拠法条項を置くというのであれば、仮処分とかの規定の書きぶりは、英米法の規定を意識した書きぶり(要するに本契約違反により金銭賠償では回復できない損害が生じることに合意するとかいう形になろうか。)にすることも検討してもよかったのではなかろうか。

 

*1:他方で経産省というか役所が出しているから、ということで盲信しそうな向きもおられるだろうけど…。

*2:そういえば前にも経産省の雛型が出てたけどあちらは見ていない…

*3:この点は、奥邨先生のご指摘をご参照。これがNDA締結交渉に起因する場合はなやましいのだが

*4:かつてそういうことをいう上司に遭遇したことが有る。