長らく積読の中にあったが、漸く一通り目を通したので感想をメモ。
まず留意すべきは、この本は、ファッションローと題するものの、ファッションに関わる全ての法律問題を扱ったような本ではない。ファッションに関する知財法について広く解説した本、というべき。他方で、ファッションに関する特有の法律問題は、知財以外にもいろいろあることには留意が必要。この点については、海老澤先生のFashion Law for Beginnersを参照のこと。
本書は、ファッションに関する知財分野の問題を、ファッションショー、ファッションデザイン、ファッションブランド、ファッションモデル、コスプレのそれぞれについて、如何に法的保護を図るかを知財法を横断的に見る形で検討している。これらは日本法に基づく議論で、これらの議論の後にドイツとアメリカについての議論の紹介がある。著者は大部分は研究者の角田先生が書かれていて、アメリカの議論を関先生が紹介する形の共著になっている。
上記のような切り口の本は、少なくとも日本ではなかったので、試み自体が画期的というべきなのだろう。ファッション製品など、対象となるものが、見た目にわかりやすいので、とっつきやすく感じた。同じものについて、知財のどの法によって保護をはかるかというところは、知財法を横断的にどう使っていくかということの一端を見ることができるので、興味深かった。
個人的に興味深かったのは、複数の法での保護が可能な場合の対応の仕方。重複する保護を避けようとする考え方もあるようだけど、保護を受けるために要式行為を要求するような法律に基づく保護は、審査とかの関係で時間がかかって、その間保護が受けられないこともあるから、重複保護を認める方向で考えても良いのではないかと感じる。特に流行をおいかける関係で、短期間勝負になるファッション分野では、無様式の法での保護に頼らざるを得ないことが多いわけだから。
他方で要式行為を要求するような法律(特許とか意匠とか)の場合は、保護期間が有限で、保護期間満了後は、保護しない(独占権を与えない)ことが意図されているので、それにも拘わらず不競法とか著作権法のような無様式で保護が与えられる法律で保護することが適切なのか、そこをどう考えるか、すぐにはわからないが検討を要するのではないかと感じた。
本書は、上記のように興味深いところがある反面で、できれば次の点については、改訂の機会にでも改善してほしいと感じた*1。