何をどこまで見るか

呟いたことなどを基に考えたことをまとめてみる*1

 

このご時勢なので、事務所に行かずにご自宅から諸々の作業をしたいというお話から、契約書とか請求書とかについて、紙での処理とか印鑑とか省略したいというお話が出てくる。それはそれで理解できなくはない。

 

こちらをご覧の大半の方にとっては自明かもしれないが、大半の契約類型において*2、契約は書面(電磁的なものも含め)の締結なしにも成立する。契約書*3なるものは、あくまでも法律上は、契約の存在及びその内容を示す一つの手段でしかない…ような気がする。だから、別に書面の取り交わしがなくても、合意を別の手段で記録できていれば(そしてその記録が、個別の必要に応じた相当期間にわたって十全に保管できていることが確保できれば)、書面の取り交わしに拘る必要はないのではないか、という気もする*4。緊急性が高い場合には、書面の取り交わしを後回しにして、合意の成立を確認したら、締結を待たずに話を進めるという対応があってしかるべきかもしれない*5

 

しかしながら、それほど単純な話かというと、そうとも限らない*6。契約書の存在が、契約締結事実の存在及びその内容を示す、法律上の立証手段の確保という意味合いを超えて、要求される場合があり、そのあたりまで考えると、先のような議論に軽々に飛びつくことができない場合もあるように思われる。

 

思いつくのは、経理とか税務、内部統制の観点から、契約書の存在が求められるような場合(収益認識の資料として使うことがあるだろう)であり、それ以外にもあるのかもしれない。この辺は、個別の状況次第だろう*7

 

考えてみるに、会社という一つの大きな「仕組み」の中で、何であれ一部の「仕組み」をいじる場合には、その「仕組み」が果たしていると「仕組み」の担い手(印鑑であれば、総務であったり法務であったりするのだろう)自身が考えていることだけ視野に入れていると、おそらく不十分で、その「仕組み」が社内で結果的に果たしている機能を踏まえていじらないと、何らかの抜け漏れが生じて、問題が生じる可能性を孕むことになりかねないように思う*8。要するに「全体」を見て考えないといけない、ということなのだろうと思う。

 

そして、更にいえば、「全体」というのは、もちろん、その時点における自社全体は含まれるのだが、場合によっては関連企業(親会社・子会社)も含めて視野に入れておくべきだろうし、個別の取引のたどり得る経過(うまくいくときと行かないときと両方の場合を想定して*9)も視野に入れて考えることができた方が望ましいのであろう。もちろん、一人の想像力だけでこれを考えきるのは容易ではないだろうから、一担当者が悩むだけではなく他の部署の人間の知見も踏まえておく方が良いものと思われる。

 

*1:以下の内容は、場所を問わず様々な方々とのやり取りも踏まえてのものであり、個別にお名前を挙げることはしないが、該当者の方々にはお礼申し上げます。当然ながら文責は当方にありますが。

*2:わかりやすい例外としては保証契約が挙げられる、が、これに限られるわけではない。

*3:電磁的なものも含む。以下同じ。

*4:もちろん、立証手段としての強さ、というか、判例・裁判例の蓄積による証拠力に関する予測可能性の高さという面でも、少なくとも現時点においては、契約書の存在の意義はなお高いと思うのだが、状況に鑑みた話ということもあり、ここでは一旦脇に置く。

*5:その場合でも、危険の低減の観点から、外部への金銭の支払いについては、然るべき書面の確保まで行わないという対応もあり得るかもしれない。

*6:こちらも指摘を受けるまであまりきちんと認識していなかったから、偉そうなことを言えた義理ではないのだが(汗)

*7:扱っているものの価額や部署の電脳化(関係者の電脳化への知悉度合いも含む)の進展、取締法規上の要請等の諸般の要素により左右されるものと思われる。

*8:稟議などの仕組みについても、電網経由での簡略化を図りすぎると、恣意的な運用による危険が生じかねないことも留意が必要なのではなかろうか。

*9:その場合は、過去にあった紛争事例などからの知見も加わるとなおの望ましいのだろう。