いつまでの話なのか

日曜日の夜に、NDA(そういう名前の単体の契約であれ、他の名称の契約の中の一条項であれ)に基づく義務の残存期間について数名の方々とTL上でやりとりしたのだが、その点について、その後にTL上で見たものも含め、こちらの経験に基づく、現時点でのこちらの考えを、自分の備忘のためにメモしておく*1

 

僕個人は、今までいた企業が、B2Bの企業、特に2社目以降は最終製品でない製品のメーカーだったこともあり、NDA(上記の意味でのもの。以下同じ)については、同じ相手と、異なる主題・目的で複数取り交わすことも、相手と攻守?入れ替わる可能性もあることを念頭において考えた方がよいのではないかと考える。そういう前提に立つと、相手に課した義務が、「前例」として、逆向きに跳ね返って来て、自社が義務を引き受けることを断りづらくなる可能性が想定されるので、自社で守れない義務を相手に課すことには慎重にした方が良いのではないかと考える*2

 

また、それなりに大きな企業であれば、時の経過の中で、事業部門自体にしても、人にしても入れ替わりが生じる可能性があるので*3、長期間の義務を引き受けると、結局きちんと面倒が見られない(特にリストラが絡むと引継ぎとかはうまくいかない可能性が高いように感じる)ので、義務の存続期間が、過度に長期化することも避けた方が良いと考える。

 

以上のような立場からすれば、NDAの契約期間後の残存義務についても有期がよいと考えることになると思う。さらにいえば、義務違反を問題にするにしても、それに対して防御をするにしても、そのためには資料は必要で、その管理に一定の費用というか負担が生じる(紙の情報でもデータであっても程度の差はあれ共通のはず)ので、その負担が永遠に続く可能性も気になるところ*4

 

もちろん、有期、と言っても、そもそもその期間をどのくらいにすればよいのか、というところで判断しづらいという事態も想定しうるが*5、そこは長めにとればよいのではないかと思う。営業秘密に属する情報であっても、公知になれば結局保護の対象からは外れるのだから、陳腐化の速度が速く、公知情報の範囲が広がっていく中では、たとえ当該情報がまだ公知でなくても、その情報を守っているべき必要性は減っていくはずで、例えば10年を超えてなお、守秘義務とかを残存させるべき情報はおそらくないのではないかと思う。

 

さらに、仮に、有期で義務を残存させる契約としても、その契約自体を自動更新させることで、結果的に義務を無期限に残す、ということも想定されるが、この考え方も、先に述べたような事業部門とかの改廃を経た結果として、情報の出し入れの実態の詳細が分からなくなったにも拘わらず義務だけが残る状態を招来する危険があるから、避けた方が無難ではないかと感じるところ。NDAに基づき情報の出し入れを事業部門側で管理する必要が生じるのだから、NDA自体の管理もしっかりとしてもらうのが良いのではなかろうかと感じる。NDA自体の管理も十分できないのであれば、情報の出し入れの管理も十分できないのではないかという懸念を持ったとしても不思議ではないのではなかろうか。

*1:やり取りに関連して、TL上で関連するいくつかの論文をご教示いただいた。これらを可能な限り読むつもりなので、今後メモした内容について考えが変わる可能性があることを念のため付言しておく。

*2:何らかの理由でその想定が不要と断言できる場合は別異に考える余地があるだろう。全社ベースで見れば、取引上の力関係が常に優越している場合とかはそうなるかもしれない。もちろん競争法上の問題は別途生じるかもしれないが。

*3:入れ替わりの結果、法務以外は誰も経緯を知らないという事態になったこともないではない。

*4:もちろん義務だけを残すことで、立証できないにしても精神的な圧力めいたもの(信義則とまで言えるかはさておき)を期待することもできると思うが...

*5:個人的にはそういう事態に直面したことはないが。