ある報告書を読んで

なんのことやら。

 

既に旧聞に属するが、聖マリアンナ医科大学の入試における女性・浪人生差別の件、第三者委員会報告書が出ていた…が、それだけなら特に興味を覚えなかったのだが、当該報告書の公開のされ方に興味を抱いた。報告書受領の事実は大学のサイトに出ているのだが、報告書はgoogle driveにおかれ、しかも、印刷やダウンロードができないというものであった*1

第三者委員会からの調査報告書.pdf - Google ドライブ

 

印刷やダウンロードができない形で、大学のサイト外に載せるということは、見方によっては、ほとぼりが冷めたころにはファイルは削除する前提、広く出回るのを避けるため、印刷とかDLはできなくした、ということだろうとも見える。仮にそうだとすればかなり姑息な印象も受ける。それが誰の意図であったにしても。もちろん文書自体が独り歩きする危険というのはあるだろうし、不祥事に属する事柄については、「忘れられる権利」ということも考えてみる余地自体があることも否定できない*2

 

とはいえ、文科省からの指摘を受けての第三者委員会の調査報告書であり、入試における性差別・年齢差別というような過去の不適切な行動があった事実を認識、再発防止に努める、という観点からは、そのような考え方や行為が許容されるとは考えにくいように思うのだが。

 

と、思っていたところ、サクッとそのあたりのプロテクトを突き破って、件のファイルを印刷可能、ダウンロード可能とされた形にまとめた方がおられたので、ダウンロードして読んでみた*3。却って興味を引いたという意味では、こうした形での公表は寧ろ逆効果だったという気もする。

 

報告書そのものの概略は、次のところでの紹介が、概ね適切と感じた。

https://topisyu.hatenablog.com/entry/2020/01/22/073000

 

実際、読んでみたところの印象としては、不適切行為という意味では、ある意味、実にありがちというところ。留年率、国家試験合格率の向上から、男性の若手を確保したいという動機があり、人事ローテーションの不在によるガバナンス・監督の不全によって不適切行為の実施が可能となったというあたりは、如何にも、という気がした。

 

他方で、大学側が否定している差別を認定する過程では、フォレンジック等の活用で、データ上差別があったというだけではなく、実際に関係者に模擬採点をさせてみることで、差別なしには現出し得ない結果だったと認定している点は、今得られているデータで足りないところを、関係者の模擬採点という、”実験”をすることで補う形になっている点で興味深かった。ある種の創造性すらも感じられた次第。

 

この問題に対する再発防止策については、大学側が、第三者委員会の指摘をどこまで真摯に受け止めたのか、受領時のリリースの内容からすれば疑義があるようにも感じたし、そもそもの背景にある日本の医療全体にも絡む問題があるので、単発の施策に実効性がどこまであるのか、疑問も感じなくはないが、そんなに軽々しくモノを言えるような言いにくい。やらないよりはよいのだろうと思うことにする。誰もが産休育休を取れるようにすべきとは思うが、それにより生じる追加的なコストをどのように負担するか、まできちんと考えないと、ひずみが単に今あるところから別のところに移ったというだけにもなりかねないように思うので。

 

*1:この点については、当の第三者委員会のお一人の某先生は、公表当時、ツイッターでは、こうした措置が講じられた点は知らなかったと呟かれていた。

*2:僕自身も、最初の会社で辞表を出すときには、退職の経緯を書面化するよう求められたときに、嫌な予感がしたので、印刷不可(追記:コピペ不可のみだった。)、コピペ不可の設定をかけてpdfを提出したことがあった。提出後にその種の措置を解除するよう求められることは、記憶の限りなかったが…。

*3:リンクは問題がありそうなので避けておく。