「条文にない債権回収のはなし」/古曳正夫

絶版本ではあるし,なぜいまさら,という話もあるが,今でも読む価値があるのではないかと感じたので,一応メモしておく。

 

 

僕自身はこの本が出た直後くらいに一度購入して読んだのだけど,今にして思えば,その当時は,この本の真価を理解するに足るだけの経験値・能力がなく,正直ピンとこなかった。それもあって留学に際して書籍を処分した際に処分してしまった。今般ブックオフで遭遇して入手した。*1当時よりは*2経験値が増えた今見ると,「おおっ」と思うことが多くなった。本にもその人にとって読むべき時期というものがあるのかもしれない。

 

森濱で倒産法の専門家として活躍した著者が,引退後に出された本。著者が逝去された際に,NBL1111号*3で小特集が組まれ,錚々たる先生方が偲ぶ記事を書かれたことからも,著者の偉大さは推認可能だろう。

 

ざっくり内容を紹介すれば,極めて平易な言葉*4で,債権回収の現場で如何に頑張るか,ということが語られている。歴戦の勇者だからこそ語れる,アイデアに満ちている*5。もちろん,2003年の本なので,現在では法令改正などの結果,直ちに使えないものもあるのかもしれないが,そういう問題とは僕は感じなかった。読み取るべきは,債権回収に対する姿勢という気がしたから。

 

あえて抽象化すれば
・取引の時点時点での実相(三現主義も含むだろうがそれ以外も含め...)を見る
・当事者の,時点ごとの,インセンティブのあるようを見る
・いかなるときも,現時点でできることはないか,アイデアを考えて実行する
という辺りなのだろう。その辺りを,いかにもありそうな実例に基づき考え抜く,やり抜く姿勢が一番大事なのだろう,そう感じた。アイデアの種本としては使えるはず。

 

この本のアイデアを活かしつつ,アップデートしたものとしては,超実践 債権保全・回収バイブル 基本のマインドと緊急時のアクション/北島敬之 ・淵邊善彦がある*6といえる*7。ただ,北島・淵辺本も,レクシスが出版から撤退したと思われることもあって,今は入手が難しいうえ,情報量が多すぎて,内容を読んでじっくり考えるのには向かない気もするので,今から入手しようというのであれば,古曳本をあえて推奨する次第。

 

ただし,一点だけ注意喚起しておくと,これは古曳本,北島・淵辺本双方に言えることだが,保全のための自社商品引き上げのところについては,現時点で考えるに,かなり危険を伴う話*8なので,鵜呑みにするのは危険だと思う…*9

 

*1:こういうことがあるから,ブックオフも無視できない。また,こちらの入手後には,複数のブックオフで見かけたので,網を張っておくと捕まるのかもしれない(自信はないけど…)。

*2:あくまでも本人比であることに注意

*3:https://wp.shojihomu.co.jp/archives/10316

*4:深い理解がなければここまで平易に語るのは難しいと感じた。

*5:個人的に印象に残った一例をあげればのは,登記簿の情報を基に適宜推定をはさみつつ,BSの修正をして,弁済率を読むという辺りに,なるほど,と感じた

*6:http://dtk.doorblog.jp/archives/37191890.html#more

*7:こちらの本の内容予告的な記事がBLJで出た際に,以下で出てくる商品引き上げ時の文書などの表現が古曳本そのままなので,その点を北島さんに確認したところ,そのとおりとのことだった。なお,古曳本は同書で参考文献に挙げられている

*8:窃盗と建造物侵入の問題があり,実行者との関係でのその教唆にもなりかねない

*9:この点は,北島・淵辺本について,無双様が従前ご示唆されていたように思う…うろ覚えだけど(探した範囲では,https://twitter.com/ahowota/status/489056379424870400があったが…)