会社法務のチェックポイント (実務の技法シリーズ1) / 美和 薫 (著), 吉田 大輔 (著), 市川 充 (編集), 安藤 知史 (編集)

入門書ばかりではよろしくないのだが…と思いつつも,何故か購入して目を通したので感想をメモしてみる。

最近,若手弁護士向け*1OJT代わりの書籍が流行っているようで,21のポイントシリーズとか事例に学ぶシリーズとかあるところに,今度は実務の技法*2シリーズが出てきて,その1巻目がこちらということのようだ。

 

先行するシリーズとの違いも意識しているのか,先行する2シリーズにない会社法務についてがシリーズ第1弾となった模様。企業法務といっても,大企業法務というより中小企業の機関法務系を中心に,純然たる会社法分野よりも幅広に解説がなされている。このあたりは,想定読者層にとって需要のありそうなところをよく狙っているということになるのだろう。先行する2シリーズにない,文献案内*3や,論点ごとのチェックポイントがある辺りは,個人的には良いと感じた。土地勘の働かない問題については,どこから考えてよいのかすらわからないことがあるので,チェックポイントのようなものがあると助かると思う。

 

出てくる論点自体は,司法試験の商法の問題でも出てくるような話がそれなりにあって,会社法の復習という感じでもある*4。ただ,実務への橋渡しという意味では,訴訟上の主張立証まで視野に入れている形で,何をすべきか,についての解説があり,司法試験後の受験生が読むのにも,その先の業務について具体的なイメージを持てるようにする意味でも適していると感じた。

 

一点引っかかったのは,一番最後にあった契約書レビューについての記事。内容が間違っているという意味ではないが,解説の抽象度が高すぎて,これだけでは使いにくいのではないかと感じた。寧ろもっと丁寧に,それこそ,このシリーズで別に一冊費やす形で解説をすべきではないかと考えるところ。この部分を省略して,他の内容,例えば,株式会社にするか,合同会社にするかというような話とか,事業譲渡周りの話,特にDDのやり方とかの話を書いたほうが良かったのではなかろうか,という気がした。

*1:当然のことながら,こちらも想定読者層には含まれることになる(汗)。

*2:どこかで聞いたような気がするがそれはさておき

*3:本ブログでも再三書いているが,入門書という立ち位置の本であれば,いずれにしても必須だと僕は考えている

*4:とはいえ,競業取引のところでパン屋の事例が出てくるのは,いい加減に某Yパンの裁判例から離れろよ,と思ったのだが…