ジュリスト 2024年 11 月号

例によって、呟いたことを基に、感想を箇条書きでメモ。

  • 判例速報。
    会社法株主総会開催禁止の仮処分に違反した総会における決議の効力は、仮処分違反で開催された決議の効力の議論の対立と対立を止揚しようとする評者の見解が興味深く感じた。
    労働判例精神障害発病者の自死の業務起因性判断と新認定基準は、評価期間についての評者の指摘になるほどと思う。
    特定の消耗品のみ使用可能とする仕様変更を独禁法違反とした事例は、解説での有りうる正当化事由の指摘が興味深く感じた。
    映画脚本の改変と同一性保持権侵害は、先頃の某漫画のドラマ化の件を想起した。
    相続により承継した債務の免除益への課税は、あるところにはあるんだなと思う。
  • 海外法律情報の韓国の遺留分及び親族相盗例に係る違憲決定は、憲法裁判所の判断が直ちに無効と違憲だが直ちに無効ではなく、立法者の裁量に委ねると二種類あり得ること、後者につき法改正の期限が付され得ることが印象的だった。
  • 特集1はプラットフォーム規制・巨大IT規制。
    森先生の原稿は、論点の開設中心に問題の全体像を鳥瞰する感じ。プロ責法が名称変更しているのは知らなかった(汗)。
    特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律の概要は、役所の人の解説だなあと。
    偽誤情報対策と表現の自由論は、最後に指摘されている表現の自由論の組み直しの議論が、これまでの議論の前提が共有されなくなる中での再検討の必要性を説いており、興味深く感じた。
    スマホソフトウェア競争促進法の全体像は、独禁法との比較での説明がわかりやすく感じた(そもそも独禁法をどこまで理解できているのかという問題があるが)。
    独占禁止法のエンフォースメントにおける確約手続の実績と課題は巨大IT企業相手に確約手続を使うことの限界の指摘が興味深く感じた。
    プラットフォーム課税制度の創設は、こういう制度があること初めて知った。大規模PFを回避すれば課税を回避可能に見えたけど、それがPF間競争にどう影響するか気になった。
    プラットフォームと安全保障は、プラットフォームと各国の安全保障との関係の二面性や、プラットフォーム事業者のビジネスの越境性と国家主権との緊張関係についての指摘が興味深かった。
    特集は、ある種日常の一部となっている巨大PFをめぐる問題状況を一覧できたように思われ、個人的には面白かった。
  • 書評。
    「財産の集合的把握と詐害行為取消権」の書評は読みどころを紹介しつつ内容への疑問を示していて興味深く感じる(が、内容はよくわかってない(汗)。)
    「法律要件から導く論点整理 景品表示法の実務」の書評は積読になっている本なので読まないと、と改めて思う。
  • 特集2は家族法改正。
    イントロの短い文章のあとは小粥先生の総論。民法の基本概念等に即した従前の民法改正・民法学の流れの中での改正法の意味の考察というところ。IIの最後の一言に納得。
    家族法改正における親権・監護権の規律の見直しは、裁判所に適時に判断できるだけのリソースがあるのか、その点をおいても、裁判所が迷わずに判断できる規範ができているのか、当事者の主張立証の負担が過度になっていないか、が気になった。
    手続法から見た養育費・親子交流の新たな規律は、手続面の負荷軽減の試みの説明があり、負荷は減ったようにも見えるものの、限界やさらに検討すべき点があることの指摘が良いと感じた。
    家族法改正の施行に向けた課題は、弁護士の立場からの高葛藤化に至る前の段階で必要だと思われる基盤整備についての検討で、いろいろな意味でハードルは高そうではあるものの、提示されている内容が興味深い。教育宣伝の重要性を感じた。
    家族法改正と裁判実務への影響は裁判官目線で見た時に論点になりそうなところの指摘という感じだろうか。その前の記事で指摘されていた裁判所のリソース不足への懸念について触れられていないのがすごいというかなんというか(汗
    特集は、判断を持ち込まれるであろう裁判所が対応しきれるのかが気になったし、そのあたりの補強を考えずに立法がされている感じなのが不安を禁じ得ない。法制審での議論の限界の指摘があったが、こういう点もそこに含まれるのではなかろうか。DDや買収後のFSなしに「天の声」でM&Aをするかのような危なさを感じる(謎
  • SDGsと経済法は排出権取引及びカーボン・クレジット取引の実務と経済法。どういう取引かもわかってなかったので、そういうものかと思いながら読む。
  • 判例詳解の事業場外みなし制における「労働時間を算定し難いとき」の意義は、情報通信機器等による管理可能性や労働時間把握義務との関係をどう整理するのかが気になった。
  • 第213回国会の概観は、例によって、記憶にはあまり残らないものの、成立した法案などの概要がまとめられているので便利。こっそりと某判事の弾劾の件も触れられていた。電子版で読んだのだが、関連記事のリンクとかがあるのは便利そう。
  • 時の判例
    遺言により相続分がないものと指定され、遺留分侵害額請求権を行使した相続人は、特別寄与料を負担するかは、そもそも特別寄与料って何?という不勉強ぶりなのだが、解説にある制度趣旨からすればこうなるよなという気がした。
    債権譲渡の対価としてされた金銭の交付が貸金業法2条1項と出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条3項にいう「貸付け」に当たるとされた事例は、賃金の性質からすればそうなるよなと思って読む。
  • 経済法判例研究の食べログの事件高裁判決は評釈での事実認定などの課題の指摘や評釈最後の段落での食べログ側の行動の矛盾点の指摘になるほどと思う。
    商事の無登録営業等の金融商品取引法違反行為の緊急差止命令は、業者の代表者も含む形で命令が出た理由の分析になるほどと思う。
    2009年ロンドン協会貨物約款に基づく保険期間の開始時は、評釈最後にあるように特約で対応すべき話だったのだろうし、保険のアレンジと実務の間に隙間があったことを事前に見つけて手当てすることの難しさを感じた。
    両建取引と取引開始後の説明(指導助言)義務は、なんとなく評釈が官庁の人っぽいなと思って調べたら評者は金融庁の人だった。
    障害者総合支援法給付と介護保険は、評釈最後のコメントになるほどと思う。
    育児休業延長、母性健康管理措置や看護休暇申請後の解雇の効力は、学校側からすれば振り回されたと感じるだろうけど、それはやむを得ないのではないかと感じた。
    私的整理(事業再生ADR)と第三者割当における上場株式の有利発行の存否等は、事業再生ADRはどういう感じで進むのかの一端が見えた気がして興味深かったが、有利発行における経済的利益の価額の議論はよく理解できなかった。
    外国政府機関に対する地位確認請求等における裁判権免除と通則法12条の適用は、労働関係の成立のところと成立後の賃金の話とで準拠法が異なりうるというのが、個人的には違和感を感じた。
    第1審判決について、被告人の犯人性を認定した点に事実誤認はないとした上で量刑不当を理由としてこれを破棄し、事件を第1審裁判所に差し戻した控訴審判決の拘束力を有する判断の範囲は、民事事件の既判力みたいな話だなと思って読む。