トランスジェンダーの公務員の方の件、最高裁判決

珍しく(汗)、判決文*1に目を通したので、雑駁な感想めいたものをメモ。

 

最高裁のサイトによると判示事項は次のとおり。

 生物学的な性別が男性であり性同一性障害である旨の医師の診断を受けている一般職の国家公務員がした職場の女性トイレの使用に係る国家公務員法86条の規定による行政措置の要求を認められないとした人事院の判定が違法とされた事例

この種の話題について、特段の知見があるわけではないので、軽々なことは言えないが、判決が出た時点で、判決についての様々な言説に接すると、そんな話だったの?と思うような内容があったこともあり、目を通してみることにした。

 

まず、この判決について最低限理解すべき点は、本判決は、個別具体的な事情に基づき特定の官庁の判断を違法としただけでのことで、それ以上の一般論は述べていないという点であろう。今崎裁判官の補足意見には次のように書かれていることからもその点は理解可能なはず。最後にこのような記載があるということは、裁判所としてもその種の不適切な受け止め方がされることを想定していたということかもしれない。ここまで書かれていてもなお、適切な受け止められ方がされないというのは、裁判所としてもどうしようもないだろうし、むしろ教育の問題というべきだろう。

なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである。

 

判旨は結局のところ、当初では緩和措置などとして適法と言い得る措置であったとしても、時とともに事態が推移するところでは、事態の推移に応じて、措置を見直すべきだったのに、それを行ったのが違法ということになるのだろう。周囲の受け止め方、理解の仕方が時とともに変化し得るところでは、妥当な判断という気がした。

 

最初の時点では大騒ぎしていろいろ検討して一定の措置は講じたものの、その後は関心が薄れて放置状態が継続したというのは、この種の問題に限らず、官庁に限らず企業でもありそうな話という気もする。仮にそうであれば、最初の段階で、最低限、次の見直しポイントまで決めておくのが適切だったのかもしれない。最近の立法で一定期間経過後の見直し規定を入れているような感じで。

 

本判決は小法廷で5人の裁判官で判決を下しているが、4人がそれぞれ補足意見を書いている。ここまで来ると、残るもう一人の林裁判官にも補足意見を書いてほしいと思わないでもない。個人的には、この判決のその先を課題について言及している今崎裁判官の意見が一番印象的だった。

*1:事件番号:令和3(行ヒ)285。