独禁法講義〔第10版〕 / 白石 忠志 (著)

版を重ねている問答無用の名著に一通り目を通したので雑駁な感想をメモ。

 

今回は10版。確か、こちらが本書を最初に手に取ったのは第3版だったと思うが、その時と表紙のカラーリングが似たものとなっている*1。本書については、旧版を手元においていても積読のまま次の版が出るということがあったが、今回は意を決して、一通り目を通してみた。

 

内容は、日本の独禁法の概要を、250ページ程度に解説するもので、独自の図解とかたとえ*2を用いて説明していて、語る必要がないと判断されたことはバッサリ落とし、明快に説明できるところは明快に説明していて、内容が濃密なので、分量に比して目を通すだけでも時間がかかった*3

 

他方で、解説の形式は、共通事項は前に括りだすというパンデクテン的な形で、それゆえに特定の事項の解説が複数の箇所に分かれることもあり、クロスレファレンスも充実しているが、調べるのには手間がかかる。通読したうえで、参照する方が良いのかもしれない。また、用語の使い方も、他書と異なるところがある点も留意が必要かもしれない。加えて、内容については、日本独自の議論を相対化する形で、他国の競争法との共通性にも配慮した形になっていて、企業活動のグローバル化の中では、そうした形の有用性は認識しやすいと思われる*4

 

疑問に感じるのは、東大教授で、実務目線では間違いなく第一人者と目される著者の説が、少数説とされている点*5。本書8頁、9頁に著者自身の分析があるが、果たしてそれだけなのか、個人的にはよくわからない気がした。

*1:「はしがき」でのカバーの色づかいに関する著者の諮問先についての言及は、僭越ながら、ほほえましく感じた。

*2:個人的にはサッカーを見ないので、サッカーのゲームのルールになぞらえたものはよくわからない気がした。

*3:それが過去の版の積読の理由でもあるのだが...。

*4:他方で、日本の独禁法に特化した解説を求める立場からは評価が分かれるのかもしれない。

*5:実際、本文で述べた他との違いなども考えると、仮に著者の説に基づき答案を書けた(それが満足にできる自信もなかったし、中途半端な内容となればリスクは拡大すると考えた。)としても、それが、その説を理解していない採点者にどう伝わるか、どう採点されるか保証の限りではない(採点基準は公開されていない以上、リスクがないとはいえないと考えた。)ので、司法試験の選択科目として経済法を選択しても、受験勉強の際には、本書ではなく多数説と思われる本を使ったのだった。著者には申し訳ないが、こちらの能力を考えると、そうせざるを得ないと判断した。