高校生のための法学入門 (民法研究レクチャーシリーズ) / 内田 貴 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。表題と内容があっているかについて気にしなければ、読み物としては面白かった。

 

高校生に向かって法学について語る*1企画の書籍化。最近こういう企画の書籍化を多く見るような気がするのは、法学部の人気低下への対応策なのだろうか。

 

帯の惹句からすると「法学の誕生」の内容を噛み砕いて説明する部分があるものと思われ、その合間に、同書の「あとがき」で見られたような債権法改正に関する恨み節が高校生相手に展開されるのを堪能できるのではないかと、不謹慎な期待をしつつ、書店でパラパラとみたところ、少なくともそのような記載をその場で見つけられなかったので一旦は買わないこととした。しかしながら、読まれた方々の呟きを見る限り、別のところに対する怨念が表出しているようなので、買ってみることにした。確かに、既に指摘が出ているが、経済界や日弁連に対する怨念のようなものが一部に見受けられた。それと、日本の法学に元気がないという記載があるが、元気がないのは、本人が夢破れて失意から立ち直っていないだけなのではないか、そんな大きな主語を振りかざせるだけの知見があって言っているのか(反語)、というところは違和感が強かった。

 

そういう点を別にすれば、特に前半部分の法学の歴史に関するくだりは、文章は平易で読み易く、書き手としての腕の確かさを改めて感じさせた。「法学の誕生」で触れられていない前近代の話とかは、個人的には特に興味深かった。歴史に関わらない部分でも、日米の「リーガルリテラシー」に関する差異についての指摘も、興味深かった*2

 

しかしながら、こうした内容が法学入門、というのが適切なのか、というと、個人的には直ちには賛同しづらいものを感じた。法学と言語との関係に関する指摘はなるほどと思うものの、最近流行り?のローエコ的な側面とかは無視して良い話かというとどうだろうか、と感じた。これだけの大物であれば、たとえ、詳しくない分野であっても、何らかの形で言及があって然るべきではないかと感じた。特にこうした文章などから、進路を決めてしまう若い方々が出るかもしれないのであれば、なおのこと。

 

 

*1:なお、相手が開成とか筑駒という超進学校の生徒さん達なので、世間一般の平均的な高校生からはかなり距離がある点は、留意が必要な気がする。著者及び企画している大村先生のような方々であれば、より平均に近い高校生に向かってであっても、語ることが出来るはずだと思うのだが...。

*2:書店における法律書の品揃えの差異については、僕もボストンなどで実感した。