本日の疑問:その記載で大丈夫なのか

疑問に思ったことがあって、ちょっと調べてみた。大した話ではないのだが、自分の備忘の意味でメモしておく。

TL上でも話題になっていたユーグレナの定款変更について。バーチャルオンリー総会についても話題になっていたが、そちらではない*1。両方について、戦士さんがバランスよくまとめられているのでご紹介をしておく。

 

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

 

こちらが疑問だったのは定款変更のうち、第2条の「目的」の部分。

www.nikkei.com

 

変更後の規定を見ると「当会社は、持続可能な社会の実現を目指して、次の事業及びこれに付帯する一切の事業を営むことを目的とする。」との柱書の後に(1)から(17)まで、「....に資する事業」という形で事業が列挙されている。「...」の部分が当節流行りのESGsに「寄せた」記載になっている反面で、それらの記載から、どういう商品役務が顧客に提供されるのかは直ちに了解しづらく見える。
また、「...に資する」、というのは、「...に役に立つ」という評価が入ることを意味するはずだから、仮にその評価から外れたらどうなるのかというところも気になる。他の項や柱書末尾の「及びこれに付帯する一切の事業」で拾えるという話もあり得るだろうが、常に拾えると言い切れるのかも、特定の価値に資する、という表現との関係でも疑義が残るように思う。例えば、(5)で「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることに資する事業ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることに資する事業」としているところで、ある事業が、ジェンダーの平等や女性へのエンパワーメントに逆行するものになっていたら、当該事業が(5)に付帯する事業というのは、厳しいのではないかという気がしないでもない。ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることに資する事業

そして、目的の範囲外となれば、取引の有効性に影響する可能性も、一応気にはなるし*2、目的の範囲外の事業を営むという定款違反に対しては、株主・監査役による差し止めの対象になるのではないか(会社法360条、385条)という気もする。事業の方向性が気に入らなくなったときに、株主が、事業が先の「資する」(及びその他の項目)に該当しないとして差し止めの訴えを濫用的に提起するようになると面倒な気がする。不用意にリスク要因を増やすのは好ましいとは思えないので。

 

定款の記載事項なので、まずは登記との関係が気になるが、手元にある商業登記ハンドブック3版*3を見てみる。

会社の目的の登記には、明確性、適法性、営利性が必要とされるが、具体性については、会社が自ら判断すべき事項なので、登記官による審査の対象にならない(平18.3.31民商782号通達)(同書p9)。
また、上記の扱いについての理由として、次の指摘もある(同書p10)。

具体性がない目的が定款に定められ、登記簿により公示されることに伴う不利益(会社の具体的な事業内容が明らかでないこと、取締役の目的外行為の差止請求が困難になること等)があったとしても、当該不利益は当該会社の構成員や当該会社を取引相手とした債権者その他の利害関係人が自ら負担すべきものと解することで足りる

上記のような整理で足りるのであれば、確かに、登記以外も含めて、今回のような変更もあり得るのかもしれない*4。個人的には直ちには賛成しがたいが。

なお、明確性との観点で次の指摘があることも留意が必要なのだろう(同書p10)

 会社の目的の明確性は、目的の具体性と同義で用いられる場合もあるが、「語句の意義が明瞭であり一般人において理解可能であること」という意味(法務省民事局第四課職員編『会社の商号と事業目的(新訂第二版)』83頁(商事法務、1990)においては、なお必要な要件である。

 そのため、目的の記載中に特殊な専門用語、外来語、新しい業種を示す語句等が使用されているときは、従来どおり、通常の国語辞典や現代用語辞典(広辞苑イミダス現代用語の基礎知識等)に当該語句の説明があるか等を参考にして判断されることとなる。 

 ここでは個別の語句の明確性が論じられているが、今回はひとまとまりのフレーズの指し示す内容の明確性の問題ではないかと思うので、上記のような議論と同列に検討すべきなのかはよく分からない。

 

いずれにしても、今回のようなある意味であいまいな目的記載が、「あり」なのか、はたまた、「あり」としてもどこまで受け入れられるのか、については、今後の状況を見守りたいと思う。

*1:バーチャルオンリー総会については、現下の感染症禍では、感染リスクとの関係では有用性があると思うし、海外その他遠隔地の株主との関係でも有用性があることは否定しない。しかし、それ以外の点で、どこまで進めるべきかは、慎重な検討が必要なのではないかと感じているが、まだ考えがまとまっていない。インターネット回線経由であることに起因する問題は残ると思うし、議場が物理的に直接株主を対峙してプレッシャーを感じることにも意味はあるのではないか、ということだけメモしておく。

*2:実際には取引の安全保護の観点からそのような判断を裁判所がすることは考えにくいが

*3:インハウスになって登記は外部の司法書士さんに丸投げするようになったので、買うかどうか悩んでいて、まだ4版を購入していない...

*4:取締法規との関係では別異の議論もあり得るだろうが、今回はそこは検討していない。