東芝の報告書について

東芝報告書をざっと読んだので、呟いたことに基づき感想をメモ。

あらかじめメモしておくと、この報告書は、当節流行りの所謂第三者委員会の報告書ではなく、会社法316条2項に基づく調査の報告書。この点違いを分かってない書きぶりの言説に接したが、当該言説はその時点で信用性に難ありという気がする。

 

総会決議を経たうえでの調査であるからこそ、フォレンジックの使用も相まって、かなり踏み込んだところ、特に経産省の関与についての情報を引きずり出すことができたものと考えられるし、そのあたりのディテールが報告書の説得力を強化したということも間違いはないだろう。その限りでは、既に指摘のあるように、秀逸な報告書であることには間違いない。
そして、こうした効果があるとわかると、これまた指摘のなされているように、所謂モノ言う株主の方々にとっては便利な道具の一つとなるのかもしれない。
もっとも、総会決議を得るためのハードルは低くないし、総会開催を要することから、密行性は保たれないので、調査が発動されるまでの間に情報廃棄がなされる可能性はあり*1、そういう点にどういう対処をするのか、という点は別途検討が必要だろうし*2、そこまで考えると、実効的に機能できる場面はそれほど多くないのかもしれない。

 

また、報告の内容については、所謂圧力問題について、東芝経産省と一体となって、所謂モノ言う株主を抑え込んだ点は、不適切だろうし*3、この点は、かの省庁及び官邸側も含めて、糾弾されるべきもの(政局マターになるのも相応と考える。)と考える。

 

とはいうものの、こちらは、報告書を読んでいていくつかの点で違和感があった。

  • この調査の調査範囲としては所謂圧力問題とその他に所謂先付処理についての問題があった。後者については、そもそも、従前に一定の調査がなされて、結論において問題はなかったようだし、この報告書でも当該報告書についての問題点が特に指摘されているわけでもない。また、規模的にも300万個代の議決権行使が全体としてあった中で5万個程度の話のようなので、仮に不正があったとしても、直ちに大勢に影響が生じるような話とも言いずらいように思われる。これらの点からすれば、敢えてここで再度この問題を蒸し返す必然性があったのかというと疑義を覚えた次第*4。もちろん、調査の結果は詳細であるのは確かだが、それは、通常の所謂第三者委員会とは異なる位置付けの調査であったことに起因するものであったことの所産であるにすぎない。所謂圧力問題と抱き合わせであれば、株主も反対まではしないのはある意味で想定しやすいところであるからこそ、規模感から言って大勢に影響するとは考えにくい問題まで、調査スコープに入れたのはどうなんだろうと感じた次第。会社の運営が効率的でないと批判する、ある種のプロの側が、非効率な調査を、しかも、会社の費用負担でやるものを、提案してどうするの、という疑念はなお残る気がする*5
  • 報告書の書きぶりについても、2点ほど気になる点があった。
    一つ目は、全体としてみると、詳細なディテールに基づき丁寧に事実認定をしようとしていると言えるとは思うけれど、ところどころ推認過程が「飛んで」いるように見えるところあり、そういうところに気づいてしまうと、要するに結論ありきで書いたもの*6、推論過程を説明できたところはそれなりに書いただけなのではないかと、感じてしまう。
    もう一つは、後段の所謂圧力問題について、時系列で認定した事実を記載するのはあり得るとしても、本件では外為法の規制との関係が問題となりそうなところ、件の規制は誰でも知っているような有名な話ではないと思う。そこで、如何なる外為法の規制が話題となっているのか、をあらかじめ説明すべきなのではなかろうかと感じた。背景事情を説明する項目を設けているのだから、そこで説明することは不可能ではないはず。そのあたりが見えづらいまま事実の羅列を読むのは、読みづらく感じた。

 

最後に、調査範囲外のことと思われるが故に調査報告書に記載がないことは問題とならないが、読んでいて疑問が残った点をいくつかメモしておく。こちらの無知ゆえの話かもしれないので、ご存じの方は適宜の手段でご教示いただければ幸いです。

  • エフィッシモは、結果的には、東芝経産省の「抑え込み」に応じてはいるものの、そもそも、なぜこうした「抑え込み」についてその場ではねのけられなかったのか。相応の時間がかかっている中での話なので、事後的にこういう形で問題にするのではなく、やり取りの中で拒絶しなかったのはなぜか。それなりに弁護士に相談したり、経産省の内部についての情報を集めるなどして、理論武装して戦っても良かったのではないかと思うのだが...*7
  • 本件、既に指摘のあるように、そもそもは、東芝がエフィッシモとの対話をうまくできていなかったことが根源にあると思われるのだけど、なぜそういうことになったのか、東芝がエフィッシモの何を嫌ったのかというのは、今一つ良くわからなかった。筆頭株主から切り売りを強制される可能性を嫌ったのかもしれないが、それだけだったのだろうか。

 

追記:例によって(謎)、企業法務戦士さんが今回の報告書についてエントリを上げられたのに接したので、ご紹介する次第。とりあえず結論については、同意、であることだけは付言させていただく。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*1:本件でも退任されたCEOの方の携帯電話端末の中の情報は、調査までの間に廃棄されていたようだった。

*2:こちらはUSの訴訟におけるligitaton holdみたいなものを想起してそこから、請求時点での現状維持の仮処分みたいなことができないかと感じるのだけど、まずは、被保全権利をどう観念するのか、というところが難しいのではないかという気がする。

*3:この点に関しては、報告書の中でもかの会社の法務の方への言及があり、その中では、言及のある法務の方はこうした抑え込みが正当化できるとは思われない点を指摘していて、それなりに法務機能が果たされているところも見て取れるのだけど、他方で、それにも拘わらずこうした行動は制止されていないという点が、法務機能の限界を感じさせて、苦い気分にならざるを得ない。

*4:ある意味で嫌がらせにも見えかねない。

*5:ご指摘をTL上でいただいた主張事実が認められない場合には調査請求者が調査費用を負担するという立法論は、アリという気もするが(もっとも金銭面意以外の会社側の事務負担をどう評価するかは問題となり得る気はする)、逆に金銭面の負担能力の乏しい主体が、空振りの危険をおそれて調査請求自体に萎縮的効果が生じる可能性も否定できない気がするので、導入する場合には注意が必要な気もする。

*6:別途指摘の出ていた用語の使い方も相まって、当事者の最終準備書面めいたものに見えてしまった。

*7:この点はエフィッシモとその資金の出し元との関係で問題となるのかもしれないが。