新・旧銀座八丁 東と西 / 坪内 祐三 (著)

例によって図書館で借りて目を通したので感想をメモ。

坪内さんが、銀座の街を16に分けて、それぞれについてご自身の思い出や、過去の書物から、その姿を描き出したエッセイ、というところか。2016年から2018年にかけての雑誌連載が基になっているので、東京五輪(その開催等がどうなるかはさておき)などに向けて、諸々の建物の建て替えなどが進行する時期でもあり、この国の力が衰えたことを受けてか、かの地ならでは、というものを感じさせるものが建て替え後に現れることはないこともあり、怒りを交えて建て替え前のものに思いをはせるうえでも、そのよすがとなるものも現存していることも多かったので、ある意味でちょうどいい時期に書かれたものということができるだろう*1

 

過去の書物(エッセイとか日記とか写真集、観光案内)からの引用が豊富なのは、坪内さんならではといえるし(ご自身の蔵書から引いているわけだし)、ご自身の記憶が豊富なのも、裕福なご家庭に生まれ、昼夜いずれの銀座にも足を運ぶ機会があり、そして、その経験を細部に至るまで記憶し、再現できるのもまた坪内さんならでは、というところなのは、氏の書物に接したことがあれば、理解し易いところだろう。

 

僕は、一回りしたの年代で、生まれ育ったところも氏とご近所の世田谷だけど、氏ほど裕福な家庭に育ったわけでも、行動力や記憶力に優れていたわけでもないし、大人になってからも、銀座は、いい意味で「敷居が高かった(過去形だが)」ので、足を踏み入れた経験は少ないのだが、それでもいくつかの点は、こちらの記憶とも重なる部分があって、納得しながら読んだのだった。

  • 銀座に中古カメラ屋が多かったのはこちらも感じたところ。カメラにはまっていたころには中古カメラ屋巡りをしたものだった。三共カメラ、カツミ堂、ミヤマ商会、ニコンハウス、レモン社等々。銀座に米兵が多く、彼らが写真を撮ることが多かった頃の名残なのだろうが。
  • マキシムドパリのナポレオンパイ(ミルフィーユ)も懐かしい。GINZA SIX*2で同様の見た目のものが供されているが、出始めの時期に一度食べて、味の違いに愕然としてからは、紛い物で記憶を汚さないために食べに行っていない*3

 

*1:著者の早世まで考えるとさらにその思いは強くなるが…。この点は、氏の中にあった豊富なディテールがこうした形でアーカイブとして残されたことを喜ぶべきなのだろう。

*2:かの建物のあった場所の過去についての本書での記載は、ものすごく興味深かった

*3:見た目だけそれらしく整えているという点ではかの建物に似つかわしいという見方も可能だろう。