「きわめてよいふうけい」

この騒ぎで、エンタメ系、特に、ライブハウスとか映画館とかの箱物系はどうなるんだろう、補助金等は出ないのか、と思っていたところ、映画館のうち、uplinkが配信に乗り出していたのを知った。

www.uplink.co.jp

配信系の見放題というやつは、どうも何だか不明瞭なところがある気がして、好きになれないのだが、こちらでは映画を一本単位で見られるということで一本見てみることにした。

 

で、選んだのが、写真家中平卓馬の晩年のポートレート・ムービーである「きわめてよいふうけい」(2004年)。

 

クリックすると、併営の「暗室」(2016年)がまず流れる。こちらは、写真家の方が、中平氏が残したネガを暗室で焼く様子を写したもので、ほとんど真っ暗な中で、写真家の方が暗室作業をしながら、話をしているのを見ることになる。暗室作業がどういうものなのか、理解していないと訳がわからないのかもしれない(こちらは、前世紀に2,3度させてもらったことがある程度なので迂闊なことはいえないが…)。中平氏の写真、特に氏が77年に失語症になる前のものについては、撮影当時の文脈を抜きにしても、現代の写真家にとっても魅せられるものがあるということがわかる。個人的には夜の写真が印象的だった。

 

ついで、ホンマタカシ氏の「きわめてよいふうけい」に移る。中平氏の晩年の姿を淡々と写したもの、というところなのだが、15年くらい前の映像ということもあり、出てくる森山大道さんや荒木経惟さんが、まだ元気いっぱいという感じなのに対して、森山さんと同じ歳のはずの中平さんがすっかり老け込んでいて、話す言葉も聞き取りやすくないし、何だか老人然としている(一番老け込んで見える部分は動画ではなく、最後の方の、静止画で写っているところではあるのだが…)のが、何ともいえない感じになる。

 

僕自身は、中平氏の写真をまとめて見たことはなく、氏については、森山大道さんのエッセイの中で断片的に語られるのに接したことがあるだけなのだが、森山さんのライバルといわれた方の様子としてはやや驚くものがあったのと、その中平氏をさりげなくサポートする森山さんの姿に、二人の関係性を垣間見た気がした。

 

老け込んでいると言いつつも、自転車で撮影に出かけたり、海辺で写真を撮るのを見たり、従前のカラーの写真集をめくって呟いているのを聴くと、それなりに写真家然としたところもあるのだが、氏の写真、特に、失語症以後のものは(映画の中に出てきたものがどれなのかはわからないがおそらく失語症以後のものだろう)、僕にはわかりづらかった。中平氏の写真は、見る側に読み解くための「コード」が必要だ、というようなことを森山さんが書いておられたのに接した記憶があるが、その「コード」が、僕には、少なくとも今のところは、ないということなのだろう。

 

ともあれ、どこかで一度まとめて中平さんの写真を見てみたい、そう思える映画だった。