細野晴臣と彼らの時代 / 門間 雄介 (著)

しばらく積読山にあったものだが、漸く一通り目を通したので感想をメモ。細野さんの評伝としても、細野さん周辺を描いた人物絵巻としても秀逸。細野さん及びその周辺におられた方々の音楽に関心のある向きにとっては、必読。

 

個人的には、細野さんというとまずはYMOであり、次に、達郎さん、大滝さん経由で少しだけ聴くようになったはっぴいえんどなのだけど、その他の活動については殆ど知らなかった。本書では、細野さんの歴史を概ね時系列に沿う形で振り返るもの。長い年月をかけて細野さんから聞き取るともに、資料も収集している(参考文献リストが凄い)ので、詳細さがすばらしいし、こちらが聴く範囲の音楽家の多くが登場する人物絵巻(という言い方が適切かどうかはわからないが)も圧巻。圧巻であるがゆえに、索引が欲しいところではあるが*1

 

個人的な読みどころとしては、まずは、はっぴいえんど、特に大滝さんとの関係なんだけど、大滝さんに直接著者が話を訊くことは、大滝さんの早世で実現せず、その点は残念だったけど、大滝さんが残した言葉や証言を丹念に集めて、お二人の関係性を描き出していたのは、読みごたえがあった。大滝さんと細野さんが、常に互いを意識していたというのは、興味深かった。なんとなく、森山大道さんと中平卓馬さんの関係を想起した(それほど詳しく知っているわけではないにしても)。

 

もう一つの読みどころは、やはりYMO時代。特に「教授」との関係で、「散開」までの間はそれほど良好ではなく(高橋幸宏さんがバランスを取っていたというのが興味深い)、寧ろ「散開」後の断続的なYMOとしての活動の中でようやく関係性が正常化したというのも、実に印象的だった。

 

読み終えてみると、細野さんがある種音楽に対して純粋で、心身の赴くまま、都度魅かれる音楽に全力で取り組んできて(だからこそ3年で飽きてしまうということなのだろう。そのあたりを大滝さんが「3歩歩くと忘れる鶏」に例えていたのは秀逸と感じた。)、その結果として幅広い音楽が生まれたんだなということ、それと、それを支えてきたのは、ご本人の人柄ゆえ(他方で対人面では気が回らないことが多いのか、氏の発言に傷ついたり、氏と不仲になる人もいて、でも、決定的に不仲になることは少ないというのは、やはり人柄ゆえのことなのだろう)に才能ある人が集まってきてくれたこと、ということを強く感じた。

 

細野さんの音楽については、ほんの少ししか接していないことが良くわかったので、無理のない範囲で、ぼちぼちとたどっていくと面白いのではないかと思った*2

*1:既にその旨密林のレビューでも指摘がされていたが強く同意する。

*2:既にYMO時代の曲であるfirecracker元ネタと思しき曲you tubeで聴いたが、印象が異なり面白かった。