映画「ニューヨーク公共図書館」

途中休憩が入って,3時間超になる大作で,英語自体はわかりやすくても*1,内容的にも見る人を選ぶ映画だと思う。とはいえ,僕自身には面白かったので,感想をメモ。

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moviola.jp

図書館のサイトはこちら

 

 ニューヨーク公共図書館,NYPLは,本部の建物自体は観光名所になっているので,足を運ばれた向きも多いのではないかと思う。僕もNYCに行ったときには行ってみたし。本部?の建物だけでも相当巨大で,その各所の映像それ自体も興味深いけど,それとは別に,90箇所以上の支所とかもある巨大な組織というのは初めて知った。

 

そういう巨大な組織で,行われている様々な活動,その中には,就職フェア*2とか,コンサート,ダンス教室,等,日本的な感覚では図書館が行うこととは考えにくいものも含まれていて,そういう様々な断片が切り取られている(個人的には,予約などされた本等の配送の仕組みが興味深かった。結構手荒に本を扱っていたし…)。図書館の裏側も見られるのが興味深い。それぞれの断片もじっくり紹介しているので,どうしても全体の時間は長くなる。やや意外だったのは,ネット接続環境の貸し出しまで図書館でしている点。知へのアクセスを確保するという意味では,現代の図書館で行っても確かに不思議ではない。こうした活動と共に,図書館の幹部の方々の会議の映像も流れ,図書館が現代的な課題,本のデジタル化だったり,デジタルデバイドだったり,ホームレスの問題だったりするけど,そういう課題にどう対応していくかの議論が興味深い。

 

図書館の未来については,デジタル化の中で不要になるのではないという議論がよくなされるが,過去の紙の資料のアーカイブとしての意味はあるだろうし(デジタル化に取り組んでいるところも映し出される),教育機関としての意味,人の集まるところとしての意味,は変わらずに残るだろう,という指摘もなされていて,確かにそういう部分はあるのだろう。

 

図書館,といっても,日本のそれとは異なり,市からの出資と民間からの寄付で動いているので,役所の一部というわけでもなく,独立性も保たれており,逆に,政治家に対してどのように働きかけをしてゆくかの部分も,幹部の議論の中では出てくるし,市側に対して,予算を得るためもあって,何ができるか,どうアピールしていくか,協業先をどう探すか,というようなところも検討されているようなので,そこのあたりは,日本の図書館との差異を大きく感じるところ。もちろん,立ち位置(他に存在する公的な施設との棲み分けの問題もあるだろう),や人員・投入可能資源の状況が異なるので,日本で同じことを求めるのは不当だろうとは感じるのだけど。

 

また,明示的には出てこないものの,ある種の寄付集めの手段という機能も託されていると思われて,その所為もあってか,あまりネガティブな話は出てこないような気がした。黒人が多く居住する地域にある支所での集会で,日常生活における黒人差別の実態が取り上げられていても,気がつくと,別の話に切り替わったし,図書館の中での個々の職員の仕事ぶりは出てくるものの(人力グーグルみたいな質問へのお答えぶりは驚異的だった),の彼らのの労働環境とかがどうなのかというような話はなかった。まあ,上記の性格が託されていると思えば当然だろうが。

 

ドキュメンタリーで,特段の結末がなく,唐突に終わった感があったが,個別の活動の紹介の合間に挟まるNYCの風景の映像も雰囲気があって良いので,この種の話題に興味があるのであれば,見ておいて損はないのではなかろうかと感じた次第*3

*1:字幕なしでも話について行けるくらいに話し方がクリアな方が多かった。

*2:消防士の熱烈さと国境警備隊の方のコントラストが(以下自粛)

*3:なお,本映画については,情報量が多いので,映画館で見るのであれば,パンフレットを購入してあとから復習するのが良いと感じた