悪いとまではいわないものの

例によって,呟いたことなどのまとめ等。時事ネタを扱うのは,好みではないが*1,個人的に懸念する点については,都度残しておくべきと思うので*2

 

 

某報道によると*3,民事事件についてAIで自動的に匿名化をはかって,データベース化をする方針とのこと。

 

データベース化それ自体は,必ずしも悪いとまでは言わない。特に有償でのみ公開されていたものが,無償で公開されるのであれば,裁判例に関する情報が広く入手可能になるはずであり,そのことは,裁判についての予測可能性を高める可能性があるのは事実だから。

 

しかし,個人的に気になるのは仮名化の問題。その辺が不十分だと,避けられるはずの被害が生じることにもなりかねない。民事の事件であっても,内容如何では,そもそも訴訟の存在からして,できるだけ伏せておきたいということもあるだろう。また,攻撃防御の手段についても,判決中で引用され,それが全世界に永久的に公開されるとなると,当該攻撃手段を呈示することにためらいが生じるケースもあるだろう(家族間・夫婦間のトラブルとか,セクハラとかのトラブルを考えればあり得ると思う)。もちろん,今までも然るべき手続きを取れば,見ることのできた情報であったかもしれないが,手間と費用も含め物理的な障壁が相応にあったのと,それらがなくなり,全世界に対して,ほぼ永久的に公開してしまうのとは話が違うと見ることも可能だろう。企業秘密についての不正競争防止法による保護のようなものがあればよいが,そういうものが常にあるとは限らない。この辺り,どこまで配慮ができるのか。AIだから配慮ができるなどというお目立たい話ではあるまい。AIがどのように学習するか,十分管理できるのか。

 

かように思うのは,僕自身が企業で法務担当者だった時代に,言いがかり的に製品についての訴訟が提起され,一審勝訴で二審で勝訴的和解という経過を辿ったところ,一審判決については,判例雑誌に判決文が公開されたことがあるから*4。さすがに当事者名のところは仮名表示されたものの,製品名とかは仮名表示されずに,製品名を検索すれば一発で企業名がわかるという事態に接して,特段大きな問題にはならなかったものの,違和感を覚えたからである。

 

もちろん,上記のような懸念があるなら,秘密性の確保がより容易な仲裁などのADRを使えばいいではないかという議論も想定可能だが,仲裁とかの実施状況が活発とはいいにくく,弁護士も仲裁なれしている人が多いとはいいづらいところで,そういう議論を無邪気に振りかざすのにも違和感が残る。

 

データを分析することで,お金を得る手段にしたい向きにとっては,両手を挙げて歓迎すべき事態なのかもしれないけれど,訴訟の当事者にとってはそうとは限らない。公開され,データベース化されることによる利益とそれに伴う不利益とを考えると,前者が常に優越するとはいえないし,後者が優越するがゆえに,裁判という手段を講じることに萎縮的効果が生じるのであれば,本末転倒な気がする*5

 

あくまで,運用に至った場合における運用実態についての懸念なのであるが,いずれにしても気になったのでメモしておく次第。

*1:某さん(ご迷惑がかかるといけないので一応伏せる)みたいにきちんと論じることができないのに,僕ごときが偉そうに論じる意味があるとは思えないし…(汗)

*2:微力とはいえ,声は出しておかないと,やったもの勝ちで押し切られてしまうのではないかという懸念は,万事において感じるところなので

*3:他に報じているところがないこともあり,見出ししか見ていないこともあって,真偽のほどがよくわからないので,リンクは貼らないでおく。その立ち位置から,こういう話題に敏感に反応する特定方面の呟きをご覧いただければたどり着くのは容易と思われる

*4:内容的に不正競争防止法に基づく保護の得られる事件ではなかった

*5:裁判の公開との関係も考えるべきだろうが,その点については,憲法に詳しいわけではないので,恐縮だけど,裁判を受ける権利との関係も考える必要があるのではないかと思ったりする