世にもあいまいなことばの秘密 (ちくまプリマー新書 442) / 川添 愛 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。言葉を使って仕事をするのであれば、目を通しておいて損のない一冊と感じた。

 

言語学者の著者が、言葉の曖昧さによって生じるすれ違いについて紹介しながら、曖昧さとの付き合い方などを説く本、という感じだろうか。TL上でのコメントなどを見て、購入してみた。平易な文章で、分量もそれほど多くないから、すぐに読み通せる。

 

自分の使う言葉に含まれる曖昧さによって、自分の意図した形とは異なる形で理解され、誤解(こちらからすれば、ということになるが)されてしまうことは、往々にしてある。気を付けていたとしてもなかなか回避も難しい。特に即時のやり取りの場合は、表現を考えてから発することが十分にできないので、そういう危険が高い。言葉を使って仕事をする職種なので、その種の危険が生じないようにしなければならないが、なかなか難しい。

 

本書では、言語学の見地から曖昧さを、表記の曖昧さ、語義の曖昧さ、普通名詞の曖昧さ、修飾語に関する曖昧さ等、9つに分け、それぞれにつき実例を挙げて、想定可能な複数の解釈と解釈が異なることにより生じ得る理解の差異、複数の解釈が生じないようにするための表現上の工夫の仕方、を解説している。最終章では、曖昧さとの付き合い方をまとめて説いている。指摘されている曖昧さについて、例文を一読して気づけるものと、そうでもないものとあって、後者については、そういう風にも解釈できるのか、と驚くものもあった。気づけないものがあった点はやや恥ずかしい気もした*1

 

一つ興味深かったのは、「おわりに」で曖昧さも悪いことばかりではないと指摘している点。曖昧さが意思疎通を効率化したり、我々の生活を味わい豊かなものにしている点の指摘は、これはこれで重要と感じた。

 

弁護士とか、企業の法務担当者、という職域で働くということは、必然的に言葉を使って仕事をするはずで、そうなると、言葉の曖昧さをできるだけ排除することが求められるように思う。曖昧さをうまく使うという余地もあるとは思うが、ある種の例外、応用編とでもいうべき領域であり、原則としては曖昧さの排除を心掛けるべきなのだろう。書き言葉での曖昧さの排除という点ではより専門的な書籍があるとしても、曖昧さがもたらす問題点を分かり易く伝える点で、本書は良い本と感じた。

*1:出てきた例文の解釈の中にはやや強引というか、そういう解釈の仕方を日常生活の中でするだろうかと疑念を抱くものも一部あった。文中に指摘があるように、第三者による校閲が十分だったのか気になるところでもある。