「株主総会の変遷と今後の展望」@旬刊商事法務2270号~2272号

勤務先にも商事法務の株主総会アンケートが来ていて、下の人が答えてくれていた。お礼代わりに?、掲題の記事のpdfが見られるようになったので、目を通してみた感想をメモしてみる*1

 

3回にわけて、4名の研究者と1名の実務家の方で座談会をしたもの。研究者のうち松井先生と舩津先生は総会の意義について懐疑的に見えたのが興味深い。

 

最初に、株主総会白書50年ということで、その意義についての意見交換。一定のクオリティがこれだけの期間維持されてきたというのは、自画自賛めいたものも感じなくはないが、確かに凄いし、これからも維持されるべきと思うが、昨今この状況に限りも見られるようなので、この点は気になるところ。これまでは、総会まわりの機関法務は、担当者間にある種の「ギルド」的なところがあったように、傍から見ていて思うのだが、そうした状態が崩れようとしているということなのだろうか、とも感じるがどうなのだろうか。

 

次に総会白書から見る総会の変遷。白書の表題や副題から読み取れる点についての検討についで、総会屋をめぐる問題と株主総会の正常化という話題に。総会屋をめぐる問題は、個人的には機関法務業務に接点ができるようになったころには、既に過去のものになっている感があったので、このあたりの話は、歴史、として認識するしかないのだけど、物事が一気に進展しない様子は興味深かった。さらに、株主提案権の変遷については、株主構成の変化とともに、提案の可決可能性が変化することで、その位置づけが変化した点や、松中先生からご紹介のアメリカの実務、澤口先生の実務家から見た300個要件の問題点の議論はそれぞれ興味深かったし、今回の改正ではそのあたりの検討がなされていないという指摘は重要な気がした。

そこから、コーポレートガバナンス株主総会の関係性への検討へと話が移る。金融機関の保有株式の放出と時価会計の導入により、機関投資家のが株式保有をするようになって、そのあたりから生じた変化の分析がこれまた面白い。澤口先生の、株主構成の変化を会社法が受け止め切れているのかという問いは重い問いと感じた。研究者の方々のこの場での反応も興味深く、特に、経営と所有の権限分配の問題についての議論は面白く難しいと感じた。身勝手ながら、研究者の方々のこの点についての更なる反応を期待したいところ。

(ここまでが3回のうちの1回目)

 

次に、2020年版株主総会白書を読んでの議論。3つに議論を分けて検討。

一つ目は新型コロナ下での株主総会。総会来場自粛要請の可否、総会開催時期、諸外国との比較も交えての緊急立法の可否というあたりは、当時の業務として直接総会実務に関係することはなかったこともあり、野次馬根性半分でTL上などから垣間見える実務を見ていたのを思い出す。個人的には、文中でも指摘されているように、ある種緊急避難的な発想に基づく「柔軟な」対応がどこまで許容されるのか、なし崩しに常態化することによる弊害を防ぐためにどういう線の引き方が良いのか、ということが、気になった。今、ナントカ宣言が明けようとしているから余計にそう思うのかもしれないが。

(ここまでが3回のうち2回目)

 

次に2つ目の議論として、新型コロナ後の株主総会のあり方との関係について。総会のバーチャル化の経緯などの解説は、思った以上に昔からこの話題が議論されていたのに驚く。バーチャル化が不可避と皆さんが考えているのはまあ理解できるし*2、総会で果たすべき機能はバーチャルでも果たすことが可能だから、バーチャルでも許容できるという議論も理解はできるが、取締役が株主と直に直面することが避けられるという意味で、取締役に対する規律が緩むのではないか、バーチャル化の必要性は理解できるものの、その点が許容されるとしたらそれは何故か、というところが、よくわからないと感じた。

 

3つ目の議論としてコーポレートガバナンス・コードと株主総会の動向についてと題して、従来の議論の流れとの関係の検討。久保田先生の基準日制度の厳格さが、有報の早期開示に対する足かせになっているという指摘は興味深いけど、基準日制度が色々なところに関係していることを考えると、情報開示の充実のために様々な調整の手間をかけるだけの価値があるのか、疑問が残った。また、総会の反対票についての対話の必要性についての議論も興味深く、松中先生がデータを示すところから入る辺りは、流石、という気がした。株主側が反対票を投じたときに、直接議題に反対しているのか、それとも会社側の何らかの対応に不満で反対票を投じたのかについては、株主、特に機関投資家の側は、積極的に会社に説明をすべきではないかと感じた。会社からは反対票が投じられたとしか認識のしようがないのだから。

 

 

*1:2021/9/30:up後に一部加筆修正した。

*2:条文上の「場所」の扱いについての松井先生の解釈は、バーチャル総会を許容するという前提に立てば、素直な気がした。