法学教室2021年7月号

例によって例のごとく呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 橋詰教授の巻頭言については、凄く納得するものを感じる。角川武蔵野ミュージアムについては、こけおどし感があって行く気になれなかったが、巻頭言での紹介を見て、少し興味が出てきた。
  • 法学のアントレは、生の事件の面白さと、判例を素材に問題集を自作してみるという勉強法を紹介したもの、ということなのだろうか。とりとめがない感じがして、何を言いたいのだろうと考えてしまった。
  • 外国法の記事はフランス法の忘れられる権利について。個人的には紹介されているフランス法下での故人の個人データの削除等請求権についての規定は妥当なものという気がした。ともあれ、GDPRをRGPDというのは何とかならないのかと感じた(ある意味、フランスらしい気もするが)。
  • 法学教室プレイバックは、若手の研究者の方が、環境法という新しい学問の黎明期の記事を紹介するのと、シニアな先生が、労働法という成熟した感のある学問の記事を紹介しているところの対照の妙があるなと感じた。
  • スポーツと法の座談会の後半は、現下の状況ではスポーツというだけで忌避感を覚えるのだが、それを差し引いてもスポーツをとっかかりにして最近の憲法行政法のそれぞれの在り方について議論になっていて、その点は興味深かった。
    時の問題は、プラットフォームを既存の憲法上の法理でとらえようとしても十分とらえきれない鵺的な存在であることが良くわかる気がした。利用規約とのその執行の在り方に焦点を当てるという筆者の見方には納得。
  • 判例クローズアップは、今月のジュリストでも取り上げられていた孔子廟事件大法廷判決。目的効果基準が合憲領域から違憲領域を切り出すのに対し、総合判断基準は違憲領域から合憲領域を切り出す、という趣旨の指摘は面白い対比に見えるが、正直よくわかってない(汗)。 
  • 講座。
    憲法。わいせつ表現規制についての著者の整理には個人的には納得。可燃性の高そうな部分も含んでいるので詳細は略(萎縮的効果が生じていると言えるかもしれないが)。
    行政法。行政行為の伝統的二分法は、釈然としないし、公定力の根拠はそもそも説明になってない、と何だか腑に落ちないところが目立ったが、この両者は別に著者に起因する話ではない。
    家族法。婚姻制度とは何かという内容で、制度の歴史的な鳥瞰が圧巻。講座の他の連載と異なり、教科書的なものという枠にあまり固執せずに、著者が思うとおりに語っているという感もある。著者がこの分野の大家だからこそなしうるのだろう。
    会社法。取締役の注意義務と任務懈怠責任のところ。利益相反があって経営判断原則の適用がないときにどうなるのかは、設問と関係ないため記載がなく、気になった。LLMの時には、BJRが利益相反で適用にならないときはentire fairness testになると聞いた記憶があるけど、日本法ではどうなるのか。リークエではこの点の記載を見つけられなかった*1
    民訴。相変わらず「知的好奇心を刺激する」云々が押し付けがましいのはさておき、三当事者間の紛争をに当事者間の訴訟で解決しようとすると、既判力だけでは足らずに反射効の議論が出てくるのはわかるが、結局解決は困難というのは良いとして、じゃあどうするんだ、というところへの言及がないのに違和感があった。紛争の一回的解決の必要性がある以上、そのための手続きとして訴訟法が何を提供しているのかについても、詳細は述べられないとしても一言言及があって然るべきではないか。
    刑法。不作為犯の解説で、説明が常識論に留まる、という批判がされているものの、なぜ常識論に留まってはいけないのかが明瞭でなくてなんとなく微妙な気分になる。常識なるものの移ろいやすさがもたらす危険故のことではないかと推測するが、もう一言説明があった方がよかったのではなかろうか。
    刑訴。ベテランの域に属する皆さんのコメントからすれば、初学者がつまづくのは、生の事件に接した経験がないから、という身も蓋もない結論になりかねない気がしたけどどうなんだろう。
  • 演習。
    憲法。団結しない自由、については意識したことがなかった。団結権自由権的側面が強調されるようになってから意識されるようになったということが理由なのかもしれないが。
    行政法。「裁量基準それ自体が拘束力を持っているのではなく、平等原則等を媒介として拘束力を帯びる」との指摘には納得。わかりやすい説明と感じた。
    民法。動産担保の競合をめぐる一連の最高裁判決の整合性についての指摘は興味深いが、指摘のようにH18,H30最判を受けて、S62最判の見直しが必要になりそうな気はするものの、自信はない(汗)。
    商法。大河演習(むしろ連続テレビ小説演習かもしれない)(謎)。事案からして駄目な感じが特濃だけど、そのイメージだけで突っ走れる話?ではなく、事案の使い方次第では逆の議論もできるのは、流石松中先生(と久保先生)、なのだろう。
    民訴。読者に傍聴に赴いて弁論準備手続等の運用を体感してほしいと書いてあるが、弁準なんて関係者以外の傍聴をそうそう簡単に認めない気がするから、体感したくでもできないのではないかと思うのだが、どうなんだろう。
    刑法。殺意については、受験生の時は認容説風に考えていたなあと思う。認容説と蓋然性説について、「実際上故意の存否は結果発生の蓋然性の認識の有無でほぼ決着がついてしまう」との指摘は身も蓋もない感じでよい。
    刑訴。紙コップからのDNA採取の場面については、考え方が色々あり得るのが興味深い。個人的にはDNAに含まれる情報の重要性とかを考えると、虚偽の事実を述べて令状なしにDNAを採取したと考えて、違法という答案を書くだろうなと感じた。
  • 判例セレクト。
    憲法の医薬品ネット販売規制の合憲性については、評者が、規制の必要性・合理性の審査については「業種別思考」が必要とする点は、こちらの経験に照らしても納得しやすいところ。
    行政法。違法行為の転換に可否についてのもの。要件が何なのかすっかり忘れていて焦る。宇賀補足意見でのさらなる検討項目の指摘も興味深かった。
    商法。少数株主による総会招集の許可と特段の事情についての事件。決定後の事実関係まで読むとエグイ事件にみえる。解説で指摘のあるように、会社側が総会を開催するといっても実際に開催がなされるまでは招集許可申立を却下しないようにするのが、少数株主の権利保護の観点では望ましいのだろう。
    刑法。進行制御困難高速度運転による危険運転致死罪の成否についてのものは、同罪の趣旨から、制御困難高速度の判断の際に、被害者量の挙動もその前提条件に入れてしまうと、本罪の成立範囲が不当に広がりすぎるという解説には納得。
    刑訴。国際捜査共助によらずにリモートアクセスにより収集した証拠の証拠能力についてのものでは、サーバが国外にあるなら、主権侵害の恐れは問題にすべきところ、その点に触れずに、重大違法性を否定したのは、判断基準が見えないので、問題があるような気がする。
  • 特集。
    森田先生の趣旨説明の後のIは、表見代理における相手方の善意・無過失と「正当な理由」について。正当理由=相手方の善意無過失に限らない、という方が、イコールと考えるよりも文言解釈として自然(イコールなら表現を揃えるべきだろう)な気がするけど、起草者の考え方の分析が興味深かった。
    IIの無権代理人の責任、のところは、117条についての起草者の理解から学説がどう変遷したかが興味深かった。ただ、一番読んでいて気になったのは、注の2か所で「石田穣教授」とあるところ。助教授のまま退官されたはずだが、何か理由があるのだろうか。有斐閣だから理由なしにするとは思われないので気になる。
    IIIの483条と551条1項の関係については、H29改正の議論を踏まえた検討が興味深いものの、これらの規定が適用される具体的な場面が想定しづらいので、実際の裁判例の蓄積(それも容易ではないかもしれないが)を待ちたい気がした。
    IVの債務の履行に代わる損害賠償債務と反対給付債務の同時履行の抗弁権は、旧規定の起草者の意図、判例法理の展開、H29改正の変更点とその影響についての解説、特に個人的には代金減額請求に関してのリスク分析が、興味深かった。
    Vの通常損耗や経年劣化による損傷の原状回復義務は、使用貸借についての議論で、実務でどの程度使用貸借について揉めるかを考えるとそもそも議論の実益がどの程度あるのか疑問。この辺りは、デフォルトルールをどっちかに決め打ちした方が良かったのではないかという気がした。
    VIの子の養育費の支払請求は、子に対する親の扶養義務の明文規定がないことから生じる問題の分析が興味深い。立法での解決が自然に見えるのだけど、どうなのだろうか。
    特集は、確かに条文を素読しているだけでは見えてこない問題点が扱われており、学習面でも有用だったのではないかと感じる。

*1:この点については、江頭には記載はなく、田中にでは「立ち入った審査」という分かったようで分からない表現がある旨をかめやさんからご教示いただいた。