webセミナー:法務の業務効率化を考える  ~AI契約書レビュー、電子契約、契約書管理~

掲題のセミナーアーカイブ配信を拝見したので、感想をメモしておく。

 

佐々木氏講演
内容だけ聞くとキラキラしていて凄く見えるんだけど*1、よく考えると、体制整備に相応の予算とか人員があるのが前提となっているところ、そこまでの体制がどうやって整えられたのかが分からない*2ので、どこまで汎用性のある話なのか疑問なしではないのと、キラキラした光の部分だけ語られているので、その陰にあるはずの部分が見えてこないのでどこまで鵜呑みにできるのかというところも疑問が残った*3
それに、細かい改善を積み上げる取り組み方が如何にも日本の製造業的と感じるのだけど、他方で、もっとラディカルな発想での新しい取り組み方には負けるんだろうなという予感もする。契約審査の効率化とかいっても、そもそも契約審査それ自体を廃止(リスクをとって、審査しないのはあり得る対応だろう。そういう事例も見聞きしたことが有る。)したらそちらには勝てない、というような話が脳裏をよぎった。

 

藤野氏講演*4
前の講演に抱いた上記の疑問に対して、物事のそもそも、に立ち返って、ある種の「答え」が示されていて、光と陰の双方にも一定程度目配りをしていて*5、こちらのように片仮名技術に懐疑的な人間にとっても納得できる穏当な内容。片仮名技術の導入の以前からの戦略性、「効率化」の見せ方の重要性を強調していたのが印象的。
組織論について、示されていた2つ目のプランというのは、事業部門内に法務機能の一部をというのは、結局人件費を事業部負担にしつつ指揮命令系統は法務で、ということに帰着するような気がして、それ自体社内政治的な議論が難しいように思えて、見た目以上に難しいのではないかという気がした。

 

LFの人*6
何だかプレゼン慣れしていない第一印象から不安になった。CEOがこれで大丈夫かという印象。
契約書に関する業務を4つに分類していて、最後のところで「締結後管理」が締結済契約書管理、期限管理しか書いていないがそれでいいのかと言う気が。履行過程での事情変化に伴う変更の要否とか出てこないのか、疑問(この点は企業内の話ではあるから技術でカバーできる話ではないのは事実なのだけど…)。
プレゼンテーションが皮相的で*7、法務担当者相手に、この程度なの?もちろん法務担当者にも経験値のばらつきはあるけどそれにしても…、という印象で違和感が残った。

 

サイトビジットの方
同じく経営する資格スクエアで先日問題になった某不祥事のおかげで、どうしても不信感が拭い去れない。
システムの導入のメリットに関して、費用削減というけど、藤野講演で言及のあった、ユーザー側のシステムのお守、ユーザーサポートのコストについてどこまで考えているのかは疑問が残った。ユーザーが認識するコストはそのあたりも含めての者ではないのかと思うわけで。
システムの比較のポイントを力説する割にその点を解説するスライドがなく、出来合いのスライドを使いまわして後は喋りで対応するスタイルに見えた点は、他と比較して見劣りがした。

 

鈴与の方
片仮名技術系の会社と一味違うという印象。なぜこの会社がこの分野に進出しているのかにつて、文書管理から進出するという発想は、個人的には理解し易かった。自社に足りないところは、他者と連携して、ユーザーに包括的なサービス提供を、という発想自体は、その実効性等はさておき、理解できるところ。

 

ディスカッション
松尾先生の仕切りが秀逸。お二方の講演の内容を踏まえて、講演内容で食い足りないところを丁寧にフォローしているのが秀逸だった。
今後の法務の在り方に関して、佐々木氏が言っておられた「課題発見型」というのは、言葉尻は良さげだが、一歩間違うと「社内警察」になりかねない(特にコンプライアンス的に疑義のあるものについては)という気がして、その辺をどうするのかというところは注意が必要な気がするのだが、その辺りをどう考えているのかよくわからなかった。
これからの法務担当者の生き残り方について、佐々木氏のプレゼンテーション能力重視というよりも、社内営業力・他分野の知識の重視という藤野先生の話の方が個人的には納得できたところ。
松尾先生が、太陽誘電における諸施策のための予算取りの話や、片仮名技術の限界、使い方についての割り切りの話に切り込んだのは、どこまで切り込めたかどうかはさておき、とても重要と思われた。
他方で、ベンダー相互のような具体的な比較に踏み込まないのは、主催者などに対する配慮という大人の事情なんだろう(謎)。

 

この種の長時間webセミナーが花盛りなのだが、個人的には長時間のこの手のものはあまり好きではない*8。とはいえ、このセミナーは適切な講演者の講演とパネルディスカッションが秀逸*9だったので、見ることのできる方は忘れずにご覧いただくことをお勧めする次第。

*1:この種の業者主体の講演会の冒頭としてはやむを得ないところはあるのだろう。

*2:過去に何かがあったのだろうけど…

*3:こういうことをいうと老害といわれるんだろうが、気にしないことにする。

*4:a.k.a...という話が一切触れられていないのが相変わらずなんだか微妙な気がするのだが、そろそろ正面切ってこの話をするようにしてほしいと思うのだった。

*5:とはいえ、個人的に疑問に思っている点の一つである、定型業務を通じて業務能力を培うという育成プロセス(能力の維持という面もあるだろう)が、提携業務の機械化で、機能しなくなるのではないか、技術の使用によって個々の担当者の能力を養えなくなるのではないか、維持できなくなるのではないかという点への懸念については、疑問は残ったが、時間の制約上何もかもカバーされるわけではないので、やむを得ないところだろう。

*6:次の方もそうだが、企業のプロダクトの紹介なのに個人の自己紹介とか必要?ましてや司法試験の成績とか不要では?という疑問も残った。

*7:時間の関係で製品のデモが省略されたから余計にそう見えたのだろう。

*8:この種のサービスが費用対効果も含めて真に優れていれば、サービス自体が最大の宣伝マンとなって広まっていくのではないかと思っているので、この種の催事が多いというのは、その逆の状況にあるのではなかろうかと思ったりするのだが

*9:ベンダーの方々のものは、正直ただのポジショントーク以上の何かがあることは期待しづらいだろうから、お義理で付き合う程度が関の山だろう