その掌返しは

何だか違和感が残ったので、呟いたことを基にメモ。

 

反社の定義について、定義不能ということを閣議決定したという件。違和感を禁じ得ない。そもそも反社の定義が必要になったのは、条例レベルかつ努力義務とはいえ、暴排条項を入れることが求められるようになったためだったと理解している。暴対法上定義されている範囲では足りないから問題が生じたのではなかったかと。

 

取引関係からの排除というそれなり以上に重い効果が生じるからには、排除対象が一定以上明確でないと、取引の当事者双方が困るわけで、だから、それなりに企業の関係者は頑張って定義を考えたはず*1。定義自体が状況の進展により変わること自体は、あり得ることだけど、定義自体が不可能というのは、定義できないものを契約上排除することは困難なので、結果的に暴排条項を有名無実化することにもなりかねず、暴排条項を入れる旗を振っておきながら*2、今更何だったんだという気がするので、強い違和感を覚えるところ。

 

個人的にはもともとあの種の条項は憲法上の疑義、職業選択の自由等との関係で疑義があるように思っていたので、本気で争われたら無効になる可能性もあるのではと考えていた。さらに、実際に定義に該当するかどうかを争われたら、該当性の立証が簡単ではないと思うので、誤って発動した際の損害賠償リスクを考えると、実際には発動させるのが相当困難だろうから、結論として無意味な条項だと思っている。

 

とはいえ、仕事としては、個人的な思いとは別にして、一定の契約には暴排条項を入れないわけにもいかず*3、対応には、相応の努力をしたので、あのような所業は正直なところ腹立たしい。

 

この点について、反社の定義をすると、その定義の網を潜脱する行為が出るから云々という言説にも接したが、その種の行為は、別にもとから想定可能なことであるから、その点を重視するなら最初から定義も排除も何もしなければよかっただけのはず。このタイミングでことさらにその種の議論をするのは、ご都合主義が過ぎると感じるところ。

 

さしあたり、現時点では、企業の外の弁護士であって、この種の問題の相談を受けることがそれほどあるわけではないのだが、ちょっとひどいなと思ったので、自分の備忘のためにメモしておく。

*1:中には疑義を覚えるような定義の仕方もあったような…気がするがそれは置く。

*2:反社の定義を示したとされているのは、現首相の第一次政権のときだったことも付言しておく。

*3:コンプライアンス系の業務との兼ね合いでは、法令に定めがあることをしないという姿勢を見せること自体が問題があると思われた。