何のことやら、呟いたことを基に益体もないメモ。こちらの現時点での体感に基づくもので、異論等がありうることは言うまでもない。
某所で「リスクテイキングマネジメント」なるものを企業内法務がすることを唱道していると思われる記事があるようだ*1。
個人的には、企業内法務*2が積極的に唱道することなのかは疑問が残る。企業内法務の「専門性」*3なるもので対応できるところがあるとすれば、それは法的な要素に関するもので、それがリスクのすべてではないだろう。地政学的リスクやレピュテーションリスク*4の類は含まれない、または、含まれない部分があるだろう。そうであるとすれば、企業内法務が認識・評価・対処が可能なものが仮にあったとしても*5、リスクのすべてをカバーするものではなく、カバーできる部分とそうでない部分とが生じる以上、企業全体視点での最適化、という観点からすれば「歪み」のある見方にならざるを得ないだろう*6。こうした「歪み」の存在は常に認識しておく必要があるのだろう。
こうしたことを考えると、企業において、リスクを取るー具体的には、不確実性を受け入れたうえでビジネス上の意思決定をすることになろうか*7ーのは、リスクが発現した際に企業としての責任を取りうる*8、立場がすべきで、それは、企業単位であれば、企業の事業責任を負う経営層の役割と考えるのが適切ではないかと考える*9。
企業内法務がそうした場面でなし得るのは何か。まず思いつくのは、「リスクを取る」という名目であれば何をしても良いわけではなく、「取る」ことが正当化されるリスクしか取り得ないはずであるから、法的な観点から「取る」ことが正当化されるか否かの確認であろう。強行法規や取締法規で禁止されているような行為を正面から実施しようとするケースを止めるというのは、実際にあるかどうかはさておき、一応想定しやすいだろう。その過程で、取ろうとする施策の一部修正によりリスクの軽減が可能であるか否かの検討や修正案の提案等がなされることもあるだろう。この辺りに寄与することが企業内法務としては望ましいと思われる。
その他に、「リスクを取る」ことの判断が適切だったのか、事後的な検証に耐えうるように適切な意思決定を行い*10、その過程及び履行過程を記録化し、保管されることを確保することになるだろう。
以上の意味で、企業内法務が「リスクを取る」を支えることは、一定の範囲でできるだろう*11。とはいえ、前記の点から、そのことと、「リスクを取る」ことを主体的に行うことは別異に考える必要があると思う。
*1:件の記事は現時点では見ていないし、当該記事に文句をいう意図ではないので、リンクなどはしない。当該記事の筆者とこちらとでは考えが異なると思われるにすぎない。
*2:機能としてのそれであって、実際の部署名は問わない。
*3:そういうものがあるのか否か、及び、仮にあるとしてその内実がいかなるものかについては、疑義があろうが、このエントリではそのあたりは一旦脇に置く。
*4:現に存在するものの、その内実や外延に不明確さがあるために、主張されると反論困難であるがゆえに安易に主張することには注意する必要がある。
*5:認識・評価・対処の間に距離があることについては、えび先生が指摘しているとおりである。
*7:ここでいう「取る」には、積極的なものと、認容ともいうべき消極的なものと両方が含まれる可能性があろう。
*8:企業内法務等のいわゆる管理部門は、別途既に指摘が出ていたように、責任は果たすことはできても、責任を取るべき立場にはいないのが通常だろう。事業を担っておらず、事業の責任を取りうる立場にもないのだから。その点は誤解してはならないだろう。ある意味で気楽ともいえるが、事業部の「暴走」を止めきれない原因にもなりかねないのが難しいと感じる。
*9:事業部単位の話であれば事業部長の役目となろう。権限責任一致の原則、という表現が脳裏をよぎる。なお、あくまでも企業内での役割の差異に起因する話なので、それ以上の価値的な要素を持ち込むのは必ずしも適切とは言い難いだろう。
*10:経営判断原則の保護が適切に受けられるようにすることが目標になろうか。なお、経営判断原則に関しては、経文緯武先輩のこちらのエントリを参照のこと。個人的にはご指摘は理解するとしても、代表訴訟リスクを考えるとなお、この観点は意識しておくべきではないかと感じる。
*11:こう考えた場合、所謂GC/CLOという法務の専門性を持つ経営層のメンバーはどういう立ち位置になるかというのも気になるが、まずは経営層である以上は、「リスクを取る」側にいるといわざるを得ないのではないか。他方で、法務の職責から逃れられないので、前記の役割も果たすことになるのではないか。経営層である以上、経営層としての知見も求められ、入ってくる情報も単なる法務部長よりも多くなるだろうから(取締役会や経営会議等の企業の最高意思決定機関に陪席したり、その事務方をしたり、その中で発言をする機会が増えたり、取締役等と直接話をする機会も増えるのが通常であろうから、情報量が増えるのはある意味で当然といえよう。)、前記の意味での「歪み」は、単なる法務部長よりも相対的には減るかもしれないが、両者の役割の間の緊張関係が最も高くなる可能性の立場となるかもしれない。