またかよと思われそうですが、思うことをメモ。一個人の意見ということで。
なお#legalAC 参加エントリです。
ここしばらくで、弁護士として*1、企業内法務*2で働く*3ことの意味を考えさせられる複数の呟きに接したので*4、自分にとっての意味を整理してみようかと思い立った。所詮いわゆるn=1の話でしかなく*5、異論があり得るのは間違いないが*6、そういう話でもこの企画に参加しても問題はないということを示せればよいのではないかと、勝手に思うことにした*7。
企業外の事務所勤務の弁護士の場合、基本的には個人事業主だろうし、自分の裁量で物事が決められることが多いように思われる。働く場所やオフィス環境も自分で決められることが多いだろう。仕事も選べるだろう。雇用主側になれば一緒に働く人間すら選ぶことができるかもしれない。収入も給与テーブルに縛られることなく、自分の才覚次第ではサラリーマン、特にJTCのそれでは得ることのできない収入を得ることもできる*8。そこまで働くかどうかはさておき、定年もない。こうした点に魅力を覚えるのは別に不思議ではない気がする。特に自分の能力に自信があればなおのこと*9。
他方で、上記の自由には責任とリスクが伴うのは否めない。自営業で、自分自身が何らかの事情で稼働できなくなると、収入の道を断たれることになりかねない*10。稼働できるとしても、仕事を取ってこれないとそもそも稼働のしようがない。仕事を取るというのも、容易とは限らない*11。
それに引き換え、企業内だと、労働法制の下での保護も一定程度得られる可能性があり*12、当該企業が倒産などしない限りは、一定の範囲で稼働できない場合も休暇制度の活用で収入を得る余地はあるし、営業担当でない限りは仕事を取ってくる必要はない。
個人的には、父親が会社経営者で、経営が傾き、会社が倒産して、担保に供していたために住んでいた家もなくなるという経験をしているので*13、積極的に自営業をやろうという発想になりづらいというのもある。もともと企業勤めから入って「社畜」根性が身についただけなのかもしれないが*14。
また、働く時間や場所、一緒に働く人(特に上司)は選べないが、最近は、企業内法務は、特に若い世代であれば、流動性も高いので、どうしても嫌なら転職するという事も想定可能だろう*15。50代でもこちらのように複数回転職できてしまうわけだし(汗)*16。また、一定の企業であれば、こちらが初職で享受したような海外留学制度(学費はさておき、家賃負担などまでしてくれる事務所は少ないのではないか。)やそこまで行かないとしてもそのほかの支援策(直接法務キャリアに関わらないものも含めて、ではあるが)が得られることもあり、事務所よりは手厚いことが多いのではなかろうか*17。
企業内での業務の内容との関係でいえば、企業内で法務部門が何をして、何をしないかは、他の部門の職務との兼ね合いで決まることから、一定ではなく、企業によって、時点によって、様々な形になり得て、状況次第では、他社ではしないような業務で、なぜこれを法務がするのか、という業務に関わる可能性もある。こちらの現職でもそう思う業務が皆無ではない*18。その会社での全社的なバランスから見て、誰もやらないのはまずい、状況的に他の部署で引き取るのも難しい、などと考えて、やらざるを得ないと思うものであれば、まだ納得もしやすいとしても*19*20。
専門性という意味では、大きな企業法務系の事務所の中のように、専門分化ができるかというとそうとも限らない。専門性を維持し続けるのにも費用が掛かるので、専門性が高い話は寧ろ「外」に出すことが多いかもしれない。そういう意味では、やってみたい仕事、高めたい専門性、へのこだわりが強いと不満に思う場面があるかもしれない*21。この点も企業ごとに差異が生じるだろう。他方で、所帯が小さいなどの理由で、振ってきたものには何でも対応しないといけないという場合は、100点満点ではないとしても、一定の答えを出す対応力が身につくという側面があるかもしれない。
また、企業内での立ち位置の強さという意味では、いわゆる管理系の中では、「人」を握っている人事や、「金」を握っている経理・財務系ほど、明確な何かを握っているわけでもなく、経営陣の距離も近いとは限らない。そのために情報が適時に入らない可能性もある。変わりつつある面もあるが、コストセンターとして経営陣に軽視される場合もあるのは否定できない。一定以上の管理職になると、そういう事態が仮にあるなら、それをどうにか変えていくことも使命となるかもしれない。
それでも「中」での業務を選ぶ理由は何か。個人的には、先に述べたような嗜好性に加えて、「外」よりも、企業の意思決定により直接的に関わることができるから*22、ということが大きい。企業外の弁護士の立場で企業の依頼者に法的問題について助言をしたとしても、その後その問題が結局どのように当該企業内で整理され意思決定がなされたのか、外からはわからないことが多い。プレスリリースなどからわかることもあるかもしれないが、そういう案件ばかりとは限らない。もちろん、当の依頼者に訊く機会があれば訊くのも手だが、開示されるとも限らない。相談者が複数回相談にくる場合に、前の施策に対して社内でどういう整理になってどういう結果になったか、問題がなかったのかというあたりについてフィードバックがあれば、その次の施策の際に、活かせるものがあるのではないかと思いつつも、そのあたりについて反応がないということも事務所時代に経験して*23、僕自身は、隔靴搔痒という感じがした。寧ろ、企業内で資格を取る前からしていたように、自分たちである程度の判断をして、判断がつかない等の理由で必要が生じれば、外から然るべき事務所の意見を徴して*24、会社の意思決定過程*25及びその履践過程に関与する方が、自分の嗜好には合うと考えた。もちろん、その時々の自分のポジションや法務部門の社内での立ち位置によって、一連の意思決定過程にどこまで関与できるかは異なってくる。社内での法務部門の存在感が強くないと、最後に契約書類だけ見てくれという話になりかねない。社内での法務部門の存在感が強く、自身の社内での認知度が上がれば、後々でおかしな事態になるのを避けたい事業部門等の人間から早めに相談が来て*26、一連の過程の最初の方から、関わることができる機会も増えるだろう。地位が上がれば、上層部だけで対応するような案件にもかかわりを持つ確率が増えるだろう*27。目の前の案件に真摯に対応し、目の前の相手と適切にコミュニケーションを取っていき、より良い結果に繋がるよう貢献できれば、そのあたりの道は開けてくるのではないか。また、対経営陣という意味では、ある程度実績を積んで一人前と認められたうえで、経営陣に「刺さる」実績を積み*28、それを適時に適切な方法でアピールすることと、それから、経営陣とのコミュニケーションを良くしていくこと、が少なくとも必要なのではないかと考えている。
そんなこんなを考えて、修習後の事務所勤務から再度企業内に戻った。修習前にいた企業に比べれば規模は小さいが、いずれも上場しているし、部長格の役職である*29。企業内に戻って4年たつが、その判断は、少なくとも僕自身のここまでにとっては、それほど間違っていなかったのではないかと考える*30。
・・・次はコウモリさんです。よろしくお願いいたします!
付記:本エントリをまとめるにあたっては、TL上の複数の方々にご意見をお伺いした。お名前を挙げるのは差し控えておくが、該当者の方々には心より御礼を申し上げる次第。もちろん文責はこちらにあるのはいうまでもない。
追記)こういうご指摘をいただきました。ご指摘にあるような緊張関係はあまり意識したことがないのも事実なので(汗)。
*1:こちらは諸般の行きがかり上、資格者となったが、別に資格者という意識はあまり高くない。そもそも再三書いているように資格がなければできないような業務はほとんどないし(今後も増えるとは思えない。)、資格なしに有資格者よりも優れた業績を残されている先達の姿も見ているし、自分自身も無資格で受持していた年数もそれなりにある。他方でNY州の弁護士として米国で執務した経験もない上、日本の弁護士として事務所勤務の経験年数が長くなく、その間も、こちらの能力不足で、大した実績もなかったので、余計にそう思う。そういう意味で、こちらのセルフイメージとしては、どちらかというと、企業内法務の人が、たまたま、弁護士資格(2つ)だけを入手したという感が強い(お世話になったある弁護士さんからは合格したときに、そうならないように頑張れと言われたが、この点については、こちらの力不足というしかない。)。そういうこともあって、いわゆるインハウスとして、資格のないかと区別してどうのこうの、という視点でのエントリはあまり書こうと思ったことがない。
そういう意味ではや、個人的にはこれまでとはやや異なるエントリと感じている。
*2:機能としてのそれであり、所属部署名は問わないこととする。
*3:企業内法務としてではなく、それ以外の立ち位置(例えば事業部門等)で弁護士が企業内として働くことも想定可能だが、今回はそこは考慮外とする、というよりも、こちらの経験の範囲外なので考慮できないのだが。総合職採用の場合は、法務系の仕事以外に配属される可能性も、ゼロではない(が、退職リスクを考えると、見た目ほど高くもないのではないか)。
*4:当該各呟きに対して文句を言う意図はないので、本エントリではリンクなどはしない。
*5:ついでにいうと、本エントリの記載は、こちらの本エントリup時点での考えに過ぎず、今後変化する可能性もある。なお、言うまでもないが、こちらの現在過去未来の所属先とは無関係のエントリであるし、こちらの現在過去未来の言動との整合性は高い棚の上に置いていることも付言する。
*6:なお、個々人の考え方・価値観に基づき自由な選択ができることが、弁護士資格の意義の一つだと思うので、そういう点について、特定の属性の方がいいというような決めつけめいた言説には違和感を覚える。どういう選択をするにせよ、十分な情報に基づき正常な精神状態で決定ができることが重要と考える。
*7:なお、企業内法務担当者から事務所の弁護士になった時に感じたことは、こちらのエントリ(2019年時点)で、そこから企業内に戻った際に感じたことはこちらのエントリ(2021年時点)でそれぞれメモしているので、併せて御覧いただくと良いかもしれない。今回は過去のエントリの内容も踏まえつつ、改めて自分にとっての「中」にいる意味を考えてみた次第。
*8:もっとも、収入の重要性は否定できないとしても、そもそも収入だけがすべてなのかというところからして、疑義があるうえ、収入の絶対額だけで比較することにどの程度意味があるのか、という疑義もあり得ることは付言しておく。企業勤務であれば享受可能な福利厚生などを再調達価格で含めて考えるという比較の仕方もあり得るのではないか。
*9:残念ながらこちらにはそういう自信はない。
*10:不動産収入を得るなどして、そのリスクを軽減する策があるのも確かだが。
*11:その点を嫌ってインハウスになるという事例にも接したことはある。
*12:TL上におられる激務の企業内法務担当者を見ればわかるように、常に、ではないことのは留意が必要なのは言うまでもない。
*13:既に初職で企業内法務で働いていた時期だったので、こちらへの実害はそれほどなかったし、大きな精神的なダメージを受けたわけではないが、ダメージがゼロだったわけでもない。
*14:企業に雇用されて働くのは、資格があっても、組織の中にいる「勤め人」であることは否めない。企業外から企業内に入る際にはそのあたりは考え方が異なることに注意が必要だろう。その点から目を背けて資格に拘りすぎると(拘るべき時もあるのは否定しない。)、企業内では生きづらいのではないかと考える。こちらはそういう発想からは遠いところにいるので理解しがたいが、ほどほどが肝要ということなのだろう。
*15:とはいえ、一つの企業に居続けることにメリットがある仕組みが特にJTCでは強いと思われるので、安易な転職は勧め難いし、企業内法務としても同じ企業に長期にいることで接することのできる確率の上がる業務もあるので、その意味でも転職は慎重に、ということは申し上げておく。こちらが言っても説得力はないが。
*16:こちらが日本とNYの資格者であり、職務経歴書上一定の経験が既に蓄積されていた(ように見えた)から、というのが大きいのは確かだが。
*17:特にインハウスの場合給与水準が高めになりがちで、そういう金額が出せる企業だとそこまでの負担能力がある場合も多いのではなかろうか。
*18:さすがにこの場では書けないが...。
*19:そうでも思ってないとやってられないというのも含めて、だが。
*20:もちろん、そうした業務の中から学ぶこと・得ることがあるというのも、十分想定可能であり、それらが本来?の法務業務に有益に作用する可能性もある。その辺は、考え方の問題という見方もできるかもしれない。
*21:この点については、業務外で「他流試合」をすることで全部ではないとしても一部は補える可能性があるのも事実。そのあたりは従前にしたエントリが参考になるかもしれない。
*22:所詮感覚でしかないのだが。
*23:この辺りについて、こちらのいた事務所のボスは顧客が言いたがらないことを訊くのを良しとしないように考えている風に見えた。この点は割り切りの問題という気もしていて、考え方の分かれるところだろうから、そういう考え方がおかしいとまでは思わない。
*24:いつ、どこから、どのような意見を取るか、その際にいかなるインプットをこちらからするか、こちらからのインプットが相手に十分理解されたかの検証、等考えるべきところはいろいろあるし、一旦徴した意見が、徴した目的に照らして過不足がないか、過不足があった時に、さらに質疑をするか、等、中の人としては判断が必要なところは相応にあるし、その判断には法的な見地等に基づく相応の弁えが必要なのはいうまでもない。
*25:経営判断原則で意思決定が保護されるようにするとともに、そのために意思決定過程の適切さを記録化し、必要に応じて所定の期間保存されることを確保することも含まれるのはいうまでもない。
*26:相手から見て「敷居の高い」存在でないことが、早期に相談してもらえるようになるうえでは重要だろう。
*27:取締役会や執行役員会等の事務方に入るとそういう案件の存在を知ることや案件の資料に触れる機会が増す。そのあたりから関わり方を増やしていくという道も想定可能だろう。
*28:案件規模が大きいものは、目立つこともあって、アピールしやすいのは否めないと思う。だからと言って、そういうものばかり狙うような「あざとさ」は長い目で見れば良い結果にはならないだろう。
*29:名称は異なることもあるが...
*30:問題が残るとすれば、この後の「出口」戦略かもしれない。その点については、考えがまとまっていないので、他日を期したい。