連絡できるのか

何のことやら。自分の備忘のためのメモ。

 

以前どなたかが呟かれていたのを見て、気になっていたが、特段調べていなかったが、思い出したので調べてみたというところ。

 

所謂刑事デジタル法案が成立したことに伴うNDAへの影響である。この法案それ自体については問題はありそうだが*1、それは本題ではないので脇へ置く。

 

上記法案では様々な法令の改正がなされているが、その中の刑訴法の改正において、電子データ等の電磁的記録について電子データを記録した媒体等あるいは電子データそのものの提供を命じることが、罰則の制裁の下で可能となる(改正後刑訴法218条1項、102の2条第1項)*2。加えて、その命令の際に、秘密保持命令というものが出せる(改正後刑訴法218条3項)。ここでは、次のような定めが置かれている。

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、電磁的記録提供命令をする場合において、必要があるときは、裁判官の許可を受けて、被処分者に対し、1 年を超えない期間を定めて、みだりに当該電磁的記録提供命令を受けたこと及び当該電磁的記録提供命令により提供を命じられた電磁的記録を提供し又は提供しなかったことを漏らしてはならない旨を命ずることができる。

また、この命令の違反に対しては罰則があり(改正後刑訴法222条の2第1項、 1年以下の拘禁刑又は 300 万円以下の罰金)、法人との両罰規定も定められている(改正後刑訴法222条の2第2項)。

 

他方で、単体で締結するNDAまたは契約書の中での同種の機能を果たす条項において、相手方から開示された秘密情報について、裁判所等の政府機関等から開示要請があった場合の扱いを定めることがある*3。一例をあげると次の通り*4

第2条(秘密保持)

1 情報受領者は,秘密情報について厳に秘密を保持するものとし,第三者に対し,秘密情報を一切開示または漏洩してはならないものとする。ただし,次のいずれかに該当する場合を除くものとする。

⑴ 本目的に関連して秘密情報を必要とする情報受領者の役員,従業員,情報受領者の依頼する弁護士,公認会計士,税理士,フィナンシャルアドバイザー等の外部専門家(以下「受領権者」という)に対し,合理的に必要な範囲で開示する場合

⑵ 情報開示者が事前に書面により承諾をした場合

⑶ 法令又は裁判所,政府機関,金融商品取引所その他情報受領者に対して権限を有する機関の裁判,命令,規則等により秘密情報の開示を要求され,合理的に必要な範囲で開示する場合

2 前項第1号の規定に基づき,情報受領者が法律上の守秘義務を負う者ではない受領権者に秘密情報を開示する場合,情報受領者は受領権者に対し,本契約によって情報受領者が負う義務と同等の義務を課してその義務を遵守させるものとし,受領権者に義務違反が認められた場合には,情報開示者に対して直接責任を負うものとする。

3 第1項第3号の規定に基づき,情報受領者が秘密情報を開示する場合,情報受領者は,情報開示者に対し,情報開示後速やかにその旨を通知するものとする。

開示を求められたからといって安易に開示をしてしまうと、前記のNDA違反になるのが通常だからである。こうした場合は、秘密保持義務の例外として開示を許容するという建付けが基本だろうが*5、その際に、当該情報の提供元への事前連絡が義務付けられることがある。その連絡を受けた側としては、要請をした行政機関等に開示されるのはやむを得ないとしても、それ以上の開示を防ぐために、何らかの措置を講じることができれば当該措置を講じることが可能となると考えられるために、こうした規定が設けられることになる。

 

上記の法改正は、開示要請に対する通知ができなくなることを意味することになろう。そうすると、前記のような文言のままだと、開示要請が来た時点で契約違反を生じさせることになりかねない*6。確率の低い話ではあるが、何らかの手を打つことも考えられる*7。具体的には、前記要請が来た場合には、事前、または事前が性質上不可能な場合は可能になってから遅滞なく、通知する、というような形での修正をすることになるものと考える。

 

上記の改正の施行日は原則として2027年3月31にまでになされる模様なので、まだ時間はあると思われる。NDA等の雛型の関係する条項の修正が必要になるのではないだろうか。

*1:日弁連が声明を出していることは、その内容への賛否はさておき、メモしておく。

*2:要件の詳細及び命令拒絶事由の定めもあるが、本題との関係性が薄いと考えるので省略。

*3:M&Aに関するものの場合は、証券取引所を含めることがある。日本の証券取引所は民間企業なので、官公庁とは異なるからである。

*4:阿部井窪片山本に出ているもの。

*5:時々、秘密情報から除外する事例を見るが、そういう扱いをしてしまうと、ある官庁から開示要請があった場合には、その時点で秘密情報ではなくなり、秘密保持義務から解放されたり、目的外使用も可能となるというのは、適切な扱いとは言えまい。

*6:契約的には不可抗力の議論ができないかと思うところではあるが、NDAで不可抗力条項を入れること自体が稀ではないかと思う。

*7:この種の事態の生じる確立や以下の改正日も含めて考えると他に改正すべき点が出るまで待つのも、自社雛型の場合はあり得る対応かもしれない。