M&A実務の基礎〔第2版〕 / 柴田 義人 (著), 檀 柔正 (著), 石原 坦 (著), 廣岡 健司 (著)

 

一通り目を通したので感想をメモ。既に古くなっている部分があるかもしれないが、M&Aに関係する企業内法務担当者であれば、一読の上、座右にあると良い一冊と感じた。

 

「はしがき」によると若手弁護士や法務部員向けのM&Aのテキストとして書かれたもの。確かにそういう感じの一冊。3章構成で、1章の総論で、手続きの流れなどを概観したのちに、第2章で各論Iとして手続きの流れに沿う形で一通りの基本的な事項を解説したのに、第3章の各論IIで、応用的な話に触れている*1。それぞれの話が簡潔なので*2、全体で450ページ弱と、内容の割にはコンパクトに収まり、通読可能な範囲にあるといえるだろう*3。基本的な用語についても一定の説明がなされているので、予備知識なしに読むこともできると思われる*4。もっとも記述が濃縮されている感もあり、一読しただけでどこまで理解できるかは別問題かもしれない。

 

M&Aは、あらゆる法分野が出てくる「総合格闘技」的な側面があるという指摘に接したことがあるが、本書を読んでもそのことはよくわかる。AMTという大手の事務所で各分野の実務に従事されている先生方が分担して書かれたということで、それぞれの内容の記載が充実したものになったということなのだろう。そういう意味でこのクラスの規模の事務所でなければ手掛けにくい書籍ということになるのだろう。

 

企業内法務の場合は、M&Aに関わることがあるとしても、M&Aのあらゆる形態に関わる機会は多くないのが通常と思われる。そうなると、未知の話に突然巻き込まれるという可能性も否定できない*5。そういう事態に備える意味で、本書のような、M&Aの全領域を鳥瞰できるテキストに目を通しておき、座右においておくことで、とっさのときの対応力を向上せさせることができるのではないかと思う*6。そういう意味では、若手に限らず、目を通しておいて損はないのではなかろうか。もちろん若手がその種の案件に関わる前に本書に目を通しておくことも有益だと思う。

 

惜しむらくは、第2版が出たのが2018年と既に10年近く前で、それぞれの分野で、既に相応の進展や新規立法などがあるものと思われる*7。そういうあたりを最新の記述にした第3版がほしいところであるし、その後も適宜の時期に内容を更新し記載も充実させて、長く読み継がれてほしいと感じた。

 

*1:あえていうなら、合併、株式交換、株式移転、会社分割などの典型的な手続きについての解説は、第2章にあるべきではないかと思ったし、仮に第3章に置くとしても、その章の冒頭に置くべきだった気がした。

*2:その意味では個別の話についての突っ込んだ議論への読書案内があるとよさそうだが、注釈のところで引かれている文献に当たることで、その目的はある程度は果たせるのかもしれない。

*3:もっと大部な鈍器本はあるが、あれは辞書的に使うもので通読するものではないだろう。

*4:といいつつ、こちらは税務・ファイナンスに関するところ等は正直説明が理解できなかった箇所があった。まあ、これらは企業内では法務のみが対応することはないと思うので...(汗)。

*5:もちろん本書がカバーしている内容のすべてを企業内法務の担当者が対応するとはかぎらないのだが。

*6:索引などを使って該当箇所だけ読めばいいという対応をしたいところだが、索引の出来はやや疑問なので全体を一読しておく方が良いと感じた。気づいた範囲ではチェンジオブコントロール条項についてはp112が索引で指定されているが、その定義を記載しているのはp83の脚注99だったりするので索引から定義にはたどり着けないことになろう。

*7:例えばM&A手法のところで株式交付が出てこないなと思ったら、立法は2018年より後であった。いわゆる敵対的買収についても変化があったのは明らかなところだろう。